2020年5月24日日曜日

神は細部に宿る

バルセロナ・パヴィリオン
「神は細部に宿る(God is in the detail)」は、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉とされます。ローエは、フランク・ロイド・ライト、ル・コルビジェと並ぶ近建建築三大巨匠の一人。鉄とガラスの建築家と言われますが、その設計思想をよく表しているのは「少ないほど豊か(Less is More)」という言葉だと思います。私は、「直線美の建築家」だと思っています。昨年、「バルセロナ・パヴィリオン」を見る機会がありました。オリジナルは、1929年、バルセロナ万博の際の作品ですが、86年に復元されました。いつまでも見ていたいほど、美しい直線美でした。

「神は細部に宿る」ですが、ローエ以前に使っている人たちもおり、古代ローマ原典説もあります。どうもはっきりしません。原典はともかくとして、いい言葉だと思います。細部を疎かにしていけないという意味、あるいはドイツのモノづくりの精神を表す言葉だとも言われます。いずれにしても丁寧な仕上げ、という理解が多いようです。それはそれでいいのですが、私は、「細部に至るまでコンセプトを貫く」という意味だと考えます。無から何かを創造するためには、まずコンセプトが無ければなりません。そのコンセプトが隅々まで実現されていれば、それは傑作足り得ます。逆に言えば、細部から作者のこだわりが見えるようでなくてはならない、ということでしょうか。

スティーブ・ジョブスは、アップル・コンピューターの成功の後、ハイ・スペックなコンピューターの開発にのめり込みます。自ら起こした会社も去り、ただ一人で泥沼のスペック地獄へと落ちていきます。彼を救ったのは、世界初のフルCG映画「トイ・ストーリー」でした。その製作に関わることで、彼は、コンピューターそのものではなく、「コンピューターが、人を幸せにできること」にこだわるべきだと確信します。

若いころ、彼らがガレージで作りあげたものは、単なる機械でした。それが、ここへきて、はじめてアップルのコンセプトが生まれたわけです。ここからアップル社の快進撃が始まり、ジョブスは、明らかに世界を変えました。i-phoneやi-podも、基本機能としては、すでに他社が開発していました。アップルは、それらを、使いやすくスタイリッシュにしたということだけではありません。機器よりも重要だったことは、ダウンロードとプラットフォームという文化基盤を提供することで、ガジェットと共に暮らす新しい日常を提示したということです。まさにジョブスのコンセプトが細部にまで徹底されていたわけです。



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