日本画と西洋画という区分は、西洋の絵画が入ってきた明治時代に作られた概念です。様々な定義づけもありますが、概ね結果論が多いように思います。例えば、最も有名な違いと言えば陰影の有無ということになります。ただ、西洋でも、中世前期頃までは、輪郭線にべた塗りが多く、日本画とあまり変わりません。それが油絵具の登場で大きく変わります。上塗りしやすい油絵具の登場で、表現方法が大きく広がったわけです。つまり、突き詰めれば、油絵具の発明が、日本画と西洋画の違いの根源なのではないでしょうか。

そして、それぞれの画材を前提に、技と表現を進化させた結果、様々な違いを生んできたのだと思います。上村松園が油で描いた「序の舞」など見たいと思いません。あの凛とした気品は、岩絵具とニカワでしか出せないと思います。同様に、レンブラントが岩絵具で「夜警」を描けるわけもありません。とは言え、日本画と西洋画の違いは、画材に起因するものばかりとも言えません。西洋画の写実に対し日本画の象徴という点も、その一つ。明確な相違ではなく、傾向という程度ですが、その背景には、宗教があると思います。
仏教もキリスト教も偶像崇拝禁止。キリスト教の神は擬人化されていますが、像も絵もありません。ただ、キリストは人間なので、より写実的である方が伝えやすいと言えます。一方、釈迦は「法(真理)に依りて人に依らざれ」と遺言します。釈迦の死から500年後、ギリシャの影響を受けたガンダーラで初めて仏像が作られます。仏教の宗教化が進んだ現れでもありますが、仏教が求めるものが「真理」であること、そして「人に依らざれ」の教えが、仏像を象徴的なものにしていったと思われます。
では、仏教・キリスト教以前は、どうだったのでしょう。彫刻を見る限り、技巧の違いはあっても、いずれも写実的だと思います。例えば、ほぼ同時期に作られたギリシャ彫刻、始皇帝陵の兵馬俑、いずれもレベルの高い写実派だと思います。とすれば、日本画も含め、東洋美術は、仏教の影響下で、象徴の道を進んだと言えるかもしれません。