2020年4月15日水曜日

営業昔話(1)営業のトヨタ

昔々、ホンダが大いに悩んだとさ。

技術力ではトヨタを超えている部分も多いのに、なぜ売り上げで超えられないのか。ホンダは、シンクタンクに依頼して、両社の違いを徹底的に分析します。お金をかけた割には、両社の技術に決定的な差違は見いだせませんでした。ところが、意外なところに注目すべき差違が見つかります。ホンダ・ユーザーの2割がディーラーの担当者氏名を覚えていたのに対し、トヨタ・ユーザーは9割が名前を言えたというのです。両社の差は、技術ではなく、営業の差だった、というわけです。

名古屋に赴任し、トヨタも担当することになった私は、トヨタの営業に関する本を探しました。名古屋の書店には、トヨタ・コーナーができるほど、多くのトヨタ本がありました。ところが、多くは生産技術や組織風土に関わるもので、営業に関する本はありませんでした。そこでネットで古本をあさり、トヨタの営業に関する本を十冊ばかり入手、すべて読みました。はっきり言って、面白い本は一冊もありませんでした。トヨタのディーラー網を築き、販売の神様と言われた神谷正太郎氏の本ですら同様。そこには、カンバンやカイゼンのような独自の仕組みなど一切ありませんでした。至って普通なのです。

「営業のトヨタ」の秘密を見つけようと意気込んでいただけに、がっかりしました。ただ、結果として、この十冊ばかりのつまらない本が、大発見を導いてくれました。トップ・ブランドを築いたトヨタの営業とは、普通のことを、どれだけ徹底的にやれるか、ということだったのではないかということです。後日、トヨタ自販出身のグループ幹部に、自販の何が凄かったのか、と聞いてみました。少し考えた末の答えは「特にない。ただ、活気だけはあったな」というものでした。

昔々、飲み会の余興として「自分が経験した凄い営業」コンテストをやりました。その夜、一等賞になったのは、カー・ディーラーの営業担当者の話。その人は、判で押したように半年に一度自宅に来る、そして判で押したように同じ事を言って帰る、というのです。それは「あなたは本当にいい車を買いました。大事に乗ってあげてください」というものでした。ディーラーは、新車への乗り換えで成績が立ちます。にも関わらず、乗り続けろ、と言うのですから、もう、その担当者以外から車を買うことなど考えられません。
”販売の神様”神谷正太郎  出典:JAHFA


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