2020年4月14日火曜日

ファンク

絵画や音楽は、それを知らない人に文章で伝えようとすれば、とても難しい作業になります。若い頃、好きな音楽は?、と聞かれ、ジャズやファンクと答えていました。あまり一般的ではなかったファンクについては、「どんな音楽?」とよく聞かれました。1拍目を強調した強いリズム、シンコペーションを効かせたベース・ライン、鋭いカッティング・ギター、延々と続くリフ、などと自分なりの理解を話しても通じるわけもなく、スマートな音楽の真逆で、泥臭く、田舎くさく、思いっきり黒っぽい音楽、と印象を語れば、余計に分からなくなります。なにせ聞いてもらうのが一番なわけです。

では、何を聞いてもらうのがいいかと言えば、やはりジェームス・ブラウンということになります。"Cold Sweat", "I got the feelin'", "Sex machine"あたり長浜のラーメン屋に近づいた時と同じくらい匂います。ところが、食べ始めると、匂いなんか気にならないわけです。ファンクは豚骨ラーメンです。そもそも黒人俗語のFunkは悪臭のこと。JBは、その音楽、あのステージ、そして存在そのものが、強烈に臭いわけです。それは、えらく原始的な匂いで、まるで人間が初めて音楽に出会った時の匂いだとも言えそうです。

60年代にJBが口火を切ったファンクは、70年前後で、大きな広がりを見せ、全盛期を迎えます。その頂点に立ったのは、天才スライ・ストーン率いるスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンでした。黒人・白人の混成バンドでしたが、おりしも高まりを見せていたブラック・パワー・ムーブメントと重なり、コンサートは常に暴動レベルの盛り上がり。騒乱の扇動容疑でFBIにつきまとわれるほどでした。その扇動ぶりは、ウッドストックの記録映画で見ることができます。猛スピードでファンクを追求していったスライは、73年、アルバム「Fresh」で頂点を極めます。余計なものをそぎ落とした、まるで墨絵のようなファンクでした。


思えば、そこでスライは神の領域に踏み込んでしまったのでしょうね。以降、転落の人生が始まります。10年ほど前、青山のブルーノートで、ルーファスのライブに客演したスライを生で見ました。大ヒット曲「ハイヤー」では、客席に降りて、皆と大合唱。私も、意外と小柄だったスライと肩を組み、歌わせてもらいました。紛れもなく、私の人生最高の瞬間の一つでした。
                                                                                              
出典:Amazon                  

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