2025年10月4日土曜日

世界人口

若年出産の母親
半世紀も前のことなりますが、”これまでに死んだ人の数は、今、生きている人の数に等しい”という話を聞きました。どうにも納得できない眉唾話だと思ったのですが、友人のなかには”そうだろうな”と言う奴もいて、混乱しました。恐らく、彼らは、ごくシンプルなファミリー・ツリーのようなものをイメージして、納得していたのではないかと思います。当時、世界の人口は40億人とされていました。2000年前後、人口が60億人を超えると、”これまでに死んだ人の数は、今、生きている人の数より少ない”という新しいヴァージョンの都市伝説が流布されました。過去の統計がないので、あくまでも推計上ではありますが、いずれの説も、科学的には、まったくのデタラメでした。

アメリカのPRB (Population Reference Bureau:人口参考局)が、発表したところによれば、ホモ・サピエンス以降、2022年までに生まれた人間は推定1,170億人となります。世界人口、つまり生きている人が82億人ですから、これまでに死んだ人は1,088億人となります。もちろん、前提の置き方次第ではありますが、おおよそ信頼できる数字なのでしょう。人間は、必ず死にます。100人生まれれば、その100人は確実に死にます。出生数が変わらず、寿命が皆同じだとすれば、人口は安定し、増えることも減ることもありません。世界人口は、産業革命が起こった18世紀から増加を始めたとされます。1800年、10億人を超えたとされる世界人口は、1900年には16億人となり、人口爆発の世紀と呼ばれる20世紀に突入します。

半世紀を経た1950年には25億人になっています。人口を構成する要素は、出生、死亡、移動です。世界人口だけを考える場合、移動は関係ありません。1950年の世界の合計特殊出生率は5.0でした。合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯で産む子供の平均数を示します。人口が安定する目安は2.1とされますので、5.0は極めて高い水準と言えます。その後、合計特殊出生率は、先進国を中心に低下を続け、2000年には2.7、2023年には2.2まで落ちています。合計特殊出生率の低下を受けて、世界人口の伸びは鈍化傾向にあります。ただ、世界人口そのものは増加を続け、2022年には82億人に達しています。つまり、20世紀中頃までの人口増加は、出生率の伸びによるところが大きく、以降、人口増加にドライブをかけたのは寿命の伸びだったと推測されます。

死亡率は、通常、千人当たりの死亡者数で表されます。死亡率の構成要素は、経済、医療、疫病、紛争等々と多岐に渡りますが、GDPとの相関も強いことが知られています。先進国が低く、開発途上国が高いわけです。世界的な死亡率は低下傾向にあります。平均寿命の伸びでみれば、1900年は31歳、1950年は48歳、2024年には73歳を超えています。とりわけGDPの低い国々で、食糧事情、医療水準などの改善が進み、死亡率が低下していることが、人口増加を加速させています。大雑把に言えば、出生率が低下しても、死亡率の低下がそれを上回るので、世界人口は、まだまだ増加していくと予測されています。国連は、2080年代に世界人口は103億人となり、ピークを迎えると予測しています。人間の寿命の伸びが限界に達するというわけです。

平均寿命が最高水準の日本ですが、死亡率は世界で10位前後とかなり高位です。高齢者の比率が高いからです。日本をはじめ世界63ヶ国の人口は、既にピークアウトしています。一方、サブ・サハラ一帯では、死亡率の低下と高い出生率によって、2050年代には人口が2倍に達すると予測されています。サブ・サハラでは、少女たちの意図せぬ出産が多いことが問題とされています。いずれにしても、地球と人類は、100億人という人口に耐えられるのか、ということが大問題だと思います。食糧需給、経済環境、気候変動など心配すべき事柄は多々ありますが、重大な問題の一つは地域による人口の偏在だと思います。100億人時代には、偏りがさらに激しくなるわけですから、早急に議論すべき事項だと思います。単に移民受入れに反対するのではなく、国際的な移民の枠組みづくりを議論すべきではないかと思います。(写真出典:ja.wfp.org)

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