2025年6月4日水曜日

南京豆

過日、伊江島のお土産に”ジーマミーあんだんすー”をいただきました。食べてみたら美味しくてドはまりしました。ジーマミー(地豆)は落花生、あんだんすーはあんだ(油)とみす(味噌)の組合せで、油味噌ということになります。新発見と思って友人に話すと「ピーナッツ味噌だろ。美味しいに決まっているよ」と言われました。買ったことも食べたこともなかったのですが、確かにスーパーでも見かけてはいました。ピーナッツ味噌は、もともと茨城県に古くから伝わる郷土料理だったようです。落花生に、ごま油、味噌、砂糖などをからめたもので、長期保存でき、ご飯に乗せて、お茶請けとして、あるいは酒のつまみにと家庭で重宝されてきたようです。

落花生の原産は、アンデス山脈の東側であり、その栽培が世界中に広がったのは16世紀中頃とされます。日本には18世紀初頭に伝わったようです。かつては南京豆と呼ばれ、植物学上の標準和名もナンキンマメとなっていることから、中国から伝来したとされていたのでしょう。それが落花生と呼ばれるようになったのは、本格的に栽培が始まった明治以降のことだと思われます。ただ、昭和初期に世界中でヒットしたキューバン・ソンの傑作「El manicero」が「南京豆売り」と訳されていることから、戦前までは南京豆という呼び名が一般的だったのでしょう。ちなみに、落花生も地豆も地中で実をつけることから名付けられ、ピーナッツは豆(pea)と木の実(nuts)の合成語です。ただ、落花生は豆であってナッツではありません。

落花生の一般的な食べ方としては、殻を取るにしても残すにしても、炒るか茹でるかといったところでしょう。中華料理では、もう少しバリエーションがあります。加工品になると、さらにバリエーションが増えていきます。大雑把に言えば、ペースト系、粉砕系、コーティング系があるように思います。ペースト系の代表は、なんといってもピーナッツバターです。アメリカでは、国民食と言ってもいいほどです。日本のピーナッツバターは甘いものが多いのですが、アメリカの場合は無糖のものが主流です。その歴史は、意外と浅く、19世紀末、カナダの薬剤師がピーナッツ・ペーストの特許を取り、翌年にはケロッグ社の創業者がピーナッツバターの特許を取得しています。ケロッグは、その栄養価の高さから肉の代替品として売り出したと言います。

ピーナッツバターの消費がアメリカやカナダで多いのは分かりますが、実はアジア各国、特に中国で大量に消費されているようです。料理もさることながら、菓子類に多く使われているようです。中国の菓子類には、ペーストだけではなく粉砕系も多く使われています。クルタレなどがいい例だと思います。コーティング系でなじみ深いのは、一粒ごとに小麦粉の衣をつけて揚げるか焼くかした豆菓子だと思います。実に多様なフレーバーがあります。、海外ではジャパニーズ・ピーナッツとも呼ばれます。他に沖縄のジーマミー豆腐、台湾の花生酥といった加工品もあります。ピーナッツは油分が多いことから、オイルとしても多様な使い方がされています。調味油以外にも、マーガリンや石鹸類の原材料としても知られます。

食品以外のピーナッツと言えば、漫画の”ピーナッツ”、歌手の”ザ・ピーナッツ”、あるいはプランターズ社の”ミスター・ピーナッツ”が思い浮かびます。チャーリー・ブラウンやスヌーピーが活躍する漫画”ピーナッツ”は、1950から2000年まで続き、”一人の人間が語った最も長い物語”とも言われます。なぜタイトルがピーナッツなのか不思議に思っていました。このタイトルは、作者のチャールズ・シュルツではなく編集者の発案でした。当時の人気TV番組で子供たちをピーナッツと呼んでいたことにヒントを得たようです。大人が一切登場しない漫画に相応しいとも思いますが、シュルツは大嫌いだったようです。もともとシュルツが付けたタイトルは、ベタですが”リル・ワールド”でした。ただ、著作権の関係で使えなかったようです。ならば”チャーリー・ブラウンと仲間たち”で良かったのではないかとも思います。(写真出典:shizengurashi.jp)

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