大分空港は、別府湾をはさんで大分市の対岸にあり、道路が整備された現在でも、陸路では最低1時間、朝夕の渋滞時にはさらに時間がかかります。こうしたアクセスの悪さもあって、観光客の多くは、便利な福岡空港と鉄道を利用して大分入りします。ただ、近年、大分空港の利用者も増加傾向にあることから、2020年、大分県はホバークラフト復活を発表しました。高速船という選択肢もあったと思いますが、導入経費が安く、導入期間も短いホバークラフトが選択されたわけです。県がホバークラフトと地上設備を所有し、運営は民間企業が行うという方式で2023年運行開始が目指されました。英国から新造ホバークラフト3台を購入し、船名も決定しましたが、就航計画は遅れ、2024年末、ようやく試験運行も兼ねた別府湾周遊が開始されました。
就航が遅れている理由の一つは、事故が相次いだことでした。ホバークラフトは操作が難しく、習熟のための時間が必要だったようです。また、風速や波高に関する厳しい運行基準によって、定時運航率が低くなるという問題も生じました。さらに、ここに来てトイレの問題が急浮上しているようです。ホバークラフトにはトイレがありません。30分という乗船時間からすれば、分からぬでもありません。法律上も問題はなさそうですが、ホバークラフトは天候によって延着も予想されることから、議論の対象となっているようです。そもそも空港行きバスにもトイレがない車両が多いと思われますので、さほど大きな問題とは思えません。ただ、かつてと比べて高齢化が進んだ日本では、決して疎かにはできない問題になったとも言えそうです。
アクセスの良い空港と言えば、まずは福岡、次いで岩国、那覇、宮崎などが挙げられます。一方、遠い空港としては、断トツの中標津は別としても、成田、関空、熊本などと並んで大分空港の名前も挙がります。道路や鉄路の整備が進み、総じて空港へのアクセスは良くなっていると思いますが、海をまたぐ大分空港は例外的です。鉄道の利用も検討されたのでしょうが、敷設コストが膨大な額になります。空港に最も近い駅は、20km離れたJR日豊線の杵築駅だと思います。大分・杵築間の電車は、最短20分強です。杵築駅までの道路を整備し、鉄道とバスを組み合わせる方法も考えられます。ただ、乗り換えに要する手間や時間、飛行機の延着などを考えれば、除外せざるを得なかったのでしょう。やはりホバークラフトという選択に落ち着くのかもしれません。
ホバークラフトの特許は、19世紀末の英国で出願されています。しかし、理論に見合う強力なエンジンがありませんでした。20世紀になると、エンジンの進化とともに多くの試作が開始され、1930年代、ソ連が魚雷艇として実用化します。現在のホバークラフトは、1950年代の英国で軍用として誕生しました。以降、軍用、旅客用、レジャー用、大型から小型まで各種ホバークラフトが製造・運用されましたが、現在ではほぼ姿を消しています。エンジン・パワーと積載量が壁になっているのでしょう。かつてソ連では、エクラノプランという地上や水面すれすれで飛行する航空機が開発されました。高速で大量輸送可能な軍用機として、カスピ海に配備されていましたが、これも姿を消しています。思えば、人間の歴史は摩擦抵抗との戦いの歴史だったとも言えます。乗り物に関して言えば、今も、リニア・モーター・カーやチューブ・トレインへの挑戦が続いています。(写真出典:visitisleofwight.co.uk)