2025年4月13日日曜日

西京味噌

2025年現在、京都には、ミシュラン3つ星の店が5店あります。なかでも、創業400年の「瓢亭」と110年の「菊乃井」は、ミシュランガイド京都・大阪版スタート時から、16年間、3つ星を維持しています。続いて14年間3つ星を獲得しているのが創業200年の「一子相伝 なかむら」です。なかむらは、名物”ぐじの酒焼き”と”白味噌雑煮”で知られます。この二品は、いまだに一子相伝の技で調理されます。一度、食しましたが、いずれも絶品でした。特に白味噌雑煮には驚きました。白味噌、いわゆる西京味噌の汁に、焼いた丸餅が一つ入っているだけの実にシンプルな代物です。ところが、その深い味わいには感動させられました。出汁と西京味噌が相乗効果を生んでいるということなのでしょう。 

白味噌の歴史は、天保元年(1830年)、腕の立つ丹波杜氏として知られていた丹波屋茂助が、御所からの用命を受けて作ったことに始まります。白味噌は、米麹、大豆、塩だけで作られます。短期熟成、低塩分で仕込まれた白味噌は、自然な甘みとなめらかな口当たりが特徴とされます。まさに公家文化のなかで育まれた味噌と言えるのでしょう。しばらくは、御所御用達として宮中にお納められていたようですが、明治期からは一般にも販売されるようになります。都としての京都はそのままに天皇が奠都した江戸は、東の京、つまり”東京”と改称されます。対して、京都は西の京”西京”とも称されることになります。以降、京の白味噌は西京味噌と呼ばれることになりました。昨今では、白味噌のうち、京都府味噌工業協同組合が認定したものだけが西京味噌と呼ばれます。

組合が認定する西京味噌は、京都府内に所在し、創業50年以上、もしくは味噌技能士1級以上の技術者が在職する組合員が、京都府内で製造する低塩多麹の味噌のうち、組合認定の材料、製造工程をもって製造され、品質審査委員会が認定したものに限るとされます。なかなかに京都らしい基準のもと、厳しいブランド管理がされているわけです。シンプルな工程がゆえに、原材料と職人の腕の良さが品質を左右するということなのでしょう。現在、組合員は7社となっており、最も有名なのは丹波屋茂助を初代とする西京味噌(本田味噌)ということになります。西京味噌と本田味噌との関係がよく分からないのですが、初代も現社長も同じで、同じ敷地内にあるようなので、同じ会社の別ブランドということなのでしょう。

味噌の種類は、大雑把に言えば、麹の種類と熟成期間で分けられます。麹の区分で言えば、米麹を使う米味噌、麦麹を使う麦味噌、豆麹を使う豆味噌の3種に分けられます。最も一般的なのが米味噌であり、麦味噌は九州と四国西部、豆味噌は中京エリアで使われます。熟成期間で見れば、短期熟成が白味噌、長期熟成させメイラード反応によって色が濃くなったものが赤味噌と呼ばれます。赤味噌は、濃いコクが特徴ですが、豆味噌である八丁味噌、米味噌の仙台味噌などがよく知られています。白味噌では、江戸甘味噌や信州味噌が有名ですが、最高峰に位置しているのが低塩多麹の西京味噌だと言えます。西京味噌は、マイルドな甘味やなめらかさゆえ、和食に限らず、洋食、中華、デザートのコク出しとしても幅広く活用されています。

最近、麹の量を増やした白味噌がスーパーにも並んでいます。美味しいのですが、さすがに西京味噌独特のまろやかな甘味には欠けます。私は、赤味噌系と合わせて自分なりの合わせ味噌にして楽しんでいます。西京味噌の魅力を最も端的に伝える料理は、京風の出汁と合わせた汁物なのかもしれません。個人的には、魚類の西京味噌漬けがお気に入りです。美味しさで言えば、魚久の京粕漬けと甲乙付けがたいところではあります。いずれも発酵の力が存分に効いているわけです。ただ、やはりまろやかな甘味という点では西京味噌が勝っていると思います。西京味噌は、確実に人を幸せにする食べ物の一つだと思います。(写真出典:honda-miso.co.jp)

マクア渓谷