2025年3月24日月曜日

ワニ

NYへ赴任すると、駐在員の皆さんが歓迎会を開いてくれました。当時のNY事務所は、3つの現地法人、20人弱の従業員、半数が駐在員といった構成でした。歓迎会は、皆さんがよくランチで使っている和食店で行われました。日本から赴任したばかりの人間を和食店で歓迎というのも如何なものかとは思いましたが、和食しか食べないという人が数人いたのでやむを得ない選択だったようです。店の壁に不思議な品書きを見つけました。ワニの刺身です。せめて異国へ来た感を味わいたかったので注文してもらいました。皆、気持ち悪がって、私だけが食べました。水っぽい鶏肉といった味ですが、さして美味しいものでもありませんでした。

後日判明したことですが、その店でワニの刺身が提供されたのは、なんと、その日だけだったようです。何か問題があったに違いない、お前、大丈夫だったか、と皆さんから気遣っていただきましたが、まったく問題ありませんでした。その後、しばらくの間、事務所で私はワニと呼ばれていました。NYにいた間に、3度ばかりフロリダのディズニー・ワールドへ行きましたが、その際、オランド-のゲイター・ランドというワニ園も訪れたことがあります。熱川バナナワニ園のようなものですが、規模が桁違いでした。今は知りませんが、かつてはワニ肉を食べることができました。チキン・ナゲットのような食べ方でしたが、やはりしまりのない鶏肉のような味がしました。特に美味しいものではありませんでした。

美味しければ、今頃、ワニは乱獲によって絶滅危惧種に指定され、場合によっては養殖も行われているはずです。山陰地方や広島県の山間部にもワニを食べる文化があります。といっても、ワニとはサメのことです。古事記の「因幡の白兎」に登場する和邇、日本書紀では鰐となりますが、これがワニかサメかについては、いまだに議論が続いているようです。日本にワニは生息しませんから、ワニとはサメの古語と理解すべきなのでしょう。ただ、ワニの語源も定かではなく、日本の固有言語ではないかとされているようです。サメの肉にはアンモニア臭があって、あまり美味しいものとは言えません。ただ、そのアンモニア成分が、サメの肉の鮮度を保つことになり、特に山間部では重宝され、祝宴の定番料理とされてきたようです。

ブルックリン出身の人に聞いた話ですが、子供の頃、ホタテはそこそこ高価なもので、街の魚屋でホタテが安く売られていると、喜んで買ったものだそうです。ただ、安いホタテの多くは、メイコー・シャーク、日本名アオザメの肉を型抜きしたものだったそうです。NYの下町の庶民は、ホタテはアンモニア臭いものだと思っていたのかもしれません。高知県民はウツボが大好きですが、これもアンモニア臭が気になります。サメ、ウツボ、エイなども新鮮なものは臭くないとされますが、そもそも、さほど美味しいものではないように思います。とは言え、優秀なタンパク源であることは間違いなく、大昔から世界中で食べられてきたようです。日本では加工品の原材料が多いわけですが、アジアでも、欧州でも、アフリカでも下処理をして食べられているようです。

フカとは、主に関西でのサメの呼称、あるいは大型のサメと言われます。深い海に生息するからフカと呼ばれたという説があります。中国三大珍味の一つはフカヒレです。中国では昔から気仙沼産が最高級品とされてきました。それはサメの種類ではなく、丁寧な加工がゆえと聞きます。フカヒレは、下処理してから天日干しにして作られます。子供の頃、近くにフカヒレの作業場があり、風向きによっては匂うことがありました。もちろん、かぐわしい匂いではありません。いつの頃か、作業場はなくなっていました。作業場ができた頃は周囲に住宅が少なく、その後、宅地化が進み、周辺住民からの苦情が多くなったということなのでしょう。私が、アンモニア臭のある魚を好まないのは、その頃の記憶によるものかもしれないと思っています。(写真出典:awsfzoo.com)

マクア渓谷