とりわけ、国産牛を使った”紋次郎”は最強のロースト・ビーフだと思っています。なぜ相原精肉店のロースト・ビーフが美味しいのかはよく分かりません。最上級の肉を使っているのでしょうが、それであれば他の高級ロースト・ビーフでも同じはずです。ところが、明らかに他とは異なる美味しさがあります。塩やにんにくの揉み込みがいい塩梅なのか、火の入れ方が絶妙なのか、あるいは熟成に何か秘訣があるのか、よく分かりません。今年の春、改装してこざっぱりとした店になりましたが、以前は下世話な町の精肉店そのものでした。相原精肉店のロースト・ビーフは、仙石原の別荘文化が生み出した傑作ということなのでしょう。
英国生まれのロースト・ビーフは、不味いと言われがちな英国料理のなかで、ほぼ唯一輝いている名品と言えます。英国では、サンデーローストと呼ばれ、日曜日の午後に食べる習慣があるようです。塩・胡椒をすり込み表面を焼いた牛肉の塊を、オーブンでじっくり焼き上げます。寝かせて肉汁を落ち着かせてから、薄くスライスして食べます。簡単と言えば簡単な料理ですが、時間がかかること、火入れが難しいことでも知られます。近年、日本の家庭では湯煎して作るレシピが一般的になっています。使う牛肉は、もも肉や肩肉の塊が多いようです。英国の伝統的な付け合わせとしては、ヨークシャー・プディング、ホース・ラディッシュ、グレイビー・ソースがよく知られています。
アメリカのビーフ・ステーキと言えば、サーロインとフィレ、両方の肉が楽しめるTボーン・ステーキが最上とされます。個人的に大好きなのはロースト・プライム・リブです。残念ながら、東京で真っ当なロースト・プライム・リブを食べられる店は、LA本店のロウリーズくらいのものです。よくロースト・ビーフとの違いを聞かれますが、基本的には使う肉の違い、そして厚切りで食べることだと思います。プライム・リブとは、あばら肉の中央部分を指します。脂肪分が多いので、ローストすると旨味としっとりとした食感が楽しめます。ロウリーズでは、ワゴン・サービスで好みの焼き加減とサイズを選べますが、1パウンド、少なくとも300g以上の塊で食べてこそ、ロースト・プライム・リブだと思います。
実は、NYで、ロースト・プライム・リブを知ってからは、どうも英国式のロースト・ビーフは物足りない感じがして、好んでは食べていませんでした。ただ、相原精肉店のロースト・ビーフだけは別物です。ところで、アメリカ伝統のフワフワとしたポップオーバーも大好物です。ポップオーバーは、ジャムや蜂蜜をかけて食べます。家でも何度か挑戦しましたが、なかなかうまく膨らみませんでした。ポップオーバーのルーツは、英国のヨークシャー・プディングなのだそうです。ロウリーズでは、サイド・ディッシュとして、ポップオーバーではなく、英国式にヨークシャー・プディングが供され、米国式のさらりとしたグレイビー・ソース、オージュをかけて食べます。(写真出典:hacooda.com)