2024年12月13日金曜日

梁盤秘抄#34 Tapestry

アルバム名:Tapestry(1971)                                                  アーティスト:キャロル・キング

Tapestry'(邦題:つづれ織り)は、歴史的大ヒットを記録したキャロル・キング2枚目のソロ・アルバムです。ビルボードで15週連続トップ、その後306週、6年間に渡りトップ100に入り続けたという怪物アルバムです。このアルバムが世界を席巻していた頃、私はジャズに狂っていて、ローレル・キャニオン系のフォーク・ロックなど、一切、見向きもしませんでした。ただ、大学の寮で同室になった先輩が好きでよく聴いており、なにげに耳にしているうちに大発見をしました。Tapestryを聞きながら昼寝をすると、やたら心地良く眠れるのです。今でも、キャロル・キングの曲調や声は、アルファ波を発生させやすい何かがあるのではないかと思っています。

キャロル・キングは、1942年、NYのブルックリンで生まれています。絶対音感を持つ少女だったようです。高校在学中の16歳で歌手デビューしますが、短命に終わり、彼女はクイーンズ・カレッジへと進学します。そこで出会ったジェリー・ゴフィンと17歳で結婚し、二人で曲作りを始めます。1960年、全米No.1ヒットになったシュレルスの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」を書いた時、キャロル・キングはまだ18歳でした。以降、コンビは次々とヒットを飛ばしていきます。リトル・エヴァの「ロコモーション」、ボビー・ヴィーの「Take Good Care of My Baby(浮気なあの娘)」、彼女自身が歌った「It Might as Well Rain Until September」、アレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」なども含まれています。早熟の天才だったわけです。

1968年には、ゴフィンと袂を分かち、フォーク・ロックのメッカとなっていたLAのローレル・キャニオンへと居を移します。シンガー・ソングライターとしてのソロ活動を開始し、その2作目となったのがこのTapestryです。シングル・カットされた「It's Too Late」は驚異的なヒットとなり、20世紀を代表する曲の一つとされています。また、同じ年にジェームス・テイラーがカバーした「You've Got a Friend」も全米No.1になりました。Tapestryの大成功は、プロデューサーであるルー・アドラーに依るところも大きいとされます。アドラーは、ママス&パパス等のプロデューサーとして名を馳せ、ロック・フェスの原点とされるモンタレー・ポップ・フェスティバルのプロデュースも行っています。Tapestryには、時代が詰まっていたという面もあるのでしょう。

キャロル・キングは、アメリカン・ポップのモーツァルトだと思っています。彼女は、画期的な新しい音楽を創造したわけではありません。彼女の音楽には、アメリカのポップ・ミュージックのエッセンスの全てが無理なく凝縮されているように思えます。だからこそ、彼女の曲は、優しく力強く、かつ、どこかなじみ深いところがあり、人々の心にすんなりと入り込むのだと思います。加えて、彼女の声には独特な魅力が備わっていると思います。決して美声ではありませんし、やたら歌がうまいというほどでもありません。むしろ、その歌声は、泥臭い野太さがあり、人々に親近感や安心感を与えるのだと思います。キャロル・キングを聞きながら眠ると心地良いという理由は、ここにあるのだと思います。

ただ、そうした彼女の声が持つ魅力はマンネリ化しやすいとも言えるのでしょう。それが、Tapestryの成功にルー・アドラーが必要だった理由でもあり、また、カバーされた曲の方がヒットしてきた背景でもあるように思います。ジェームス・テイラー、アレサ・フランクリン、ビートルズ、モンキーズ、カーペンターズ、バーブラ・ストライサンド、セリーヌ・ディオン、マライア・キャリー、リンダ・ロンシュタット等々、彼女の曲をレコーディングしたアーティストの名前を並べるだけで、20世紀後半のポップスの歴史を語れるほどだと思います。キャロル・キングは、グラミー賞はじめ、多くの賞を総ナメにしてきましたが、それでも十分ではないほど偉大なミュージシャンなのだと思います。(写真出典:amazon.co.jp)

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