2024年10月27日日曜日

カー・チェイス

映画のなかのカー・チェイスは、既に無声映画時代から登場しています。ただ、現代の主流である派手なカー・チェイスは、ピーター・イェーツ監督、スティーブ・マックイーン主演の「ブリット」(1968年)に始まるとされます。サンフランシスコの坂道を舞台に、延々と繰り広げられるカー・チェイスのリアルな迫力には驚かされました。もちろん、CGのない時代ですから、実際の車を公道で走らせて撮影されています。車は坂道をバウンスしながら疾走しますが、車内からの映像など車酔いしそうなほどの迫力でした。「ブリット」は、自身もカー・レーサーとしてならしたスティーブ・マックイーンと、プロのレーシング・ドライバーの経験もあるピーター・イェーツのコンビゆえに成立した希有な映画です。

印象的だったのはエンジン音です。ピーター・イェーツは、リアルで迫力のあるエンジン音がカー・チェイスの重要な要素であることを発見した監督でもあります。エンジン音を響かせたのは、フォード・マスタングとダッジ・チャージャーでした。マックイーン扮するブリット刑事が乗るのは325馬力V8エンジンを積むフォード・マスタングGTのファストバックです。エンジン、ブレーキ、サスペンションは映画用に大幅に改造されていたようです。追われる側は、375馬力V8エンジンを搭載したダッジ・チャージャ-です。いわゆるマッスル・カーです。映画から20年後、あこがれのマスタングをフロリダでレンタカーしたことがあります。4.0Lエンジンでしたが、さほど面白い車とは思いませんでした。ま、時代が違いますからね。

マックイーンが抜擢したというピーター・イェーツは、英国人で、王立演劇アカデミー卒業後、演劇界を経験してから映画界入りしています。「ブリット」で大成功したピーター・イェーツは、アクションだけでなく、ヒューマン・ドラマ、恋愛もの、SF映画,コメディと実に多様な映画を撮っていきます。「マーフィの戦い」、「ヤング・ゼネレーション」、「ドレッサー」などは高い評価を得ましたが、アカデミー賞ではノミネートどまりでした。ピーター・イェーツは、ディテールにこだわることで知られた職人肌の監督でした。当然、「ブリット」にも、その気質や知識・経験が大いに活かされたわけです。「ブリット」以降、カー・チェイスは、アクション映画や犯罪映画の定番シーンになっていきます。

その流れを決定的にしたのが、ウィリアム・フリードキン監督の傑作「フレンチ・コネクション」(1971年)でした。徹底的なリアリズムでゴリゴリ押してくるフリードキンらしいカー・チェイスでした。映画は、作品賞、監督賞を含む5部門でアカデミー賞を獲っています。1973年にはフレンチ・コネクションのスタッフをフィリップ・ダントー二監督が率いて撮った「重犯罪特捜班/ザ・セブン・アップス」、1974年にはスタントマン出身のH・B・ハリッキー監督の「バニシングin60″」、1978年にはウォルター・ヒルの「ザ・ドライバー」等が続き、カー・チェイスはどんどんエスカレートしていきます。同時に、新しいアイデアと改造車の競争は、カー・チェイスをリアリティからはかけ離れたものにしていきました。

マッドマックス、ワイルドスピード、トランスポーターといったシリーズものは、CGも多用したカー・チェイスないしはカー・アクションがメインであり、ドラマは付け足しのような印象すら受けます。それはそれで映画として成立しているわけですが、その傾向を突詰めれば、映画ではなくマニアックな映像になってしまうように思います。もちろん、リアリティにこだわったカー・チェイスを見せる映画もあるにはあり、頑張ってもらいたいものだと思います。カー・チェイスの話で、忘れてはいけない映画に「ミニミニ大作戦」(1969年)があります。モーリス・ミニ・クーパーが大活躍するウィットあふれる映画でした。マッスル・カーがすべてではないということです。「ミニミニ大作戦」は、「ブリット」とともにカー・チェイスの歴史を代表する映画だと思います。(写真出典:amazon.co.jp)

マクア渓谷