2024年10月11日金曜日

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」

監督:アレックス・ガーランド  原題:Civil War  2024年アメリカ・イギリス

☆☆☆

A24の製作・配給ですが、製作費5,000万ドルは同社にとって過去最大であり、興行収入も「ヘレディタリー/継承」(2018)を超えて最高額になったようです。アレックス・ガーランドは、小説家から脚本家・監督に転じた人で、2015年のSF映画「エクス・マキナ」(2015)で評価されました。低予算映画ながら、独特なムードを持つ面白い映画でした。アカデミー脚本賞にもノミネートされ、視覚効果賞を受賞しています。「エクス・マキナ」は、閉鎖空間内で、登場するのは人間2人とロボット2体だけという、いわば脚本主体で展開できる映画でした。報道カメラマンの世界、前半はロード・ムービー、後半は戦争映画という本作は、ややガーランドの手に余ったのではないかと思います。

この映画がヒットした最大の要因は、米国の内戦という着想にあるのだと思います。トランプがブーストさせた米国の二極化は、議会襲撃事件を挙げるまでもなく、危ういレベルにまで達していると思われます。それを内戦という究極的な形で提示されれば、米国民の多くは劇場へ足を運ばざるを得ないわけです。本作は、2022年に制作が決定し、即座に撮影に入ったようです。急いだ理由は、恐らく大統領選にぶつけるということなのでしょう。そういう意味では、映画の出来よりも公開のタイミングが重要であり、まんまと成功したと言えます。本作において、二極化や内戦は、テーマではなく、あくまでも背景としての設定です。従って、その原因や要因は、一切、語られず、示唆すらもされていません。決して社会問題に向き合った映画ではないということです。

本作のメイン・プロットは、新人報道カメラマンの成長です。ベテランと新人を配し、特殊ともいえる報道カメラマンの世界を描くという、ある意味、伝統的な手法が採られてます。そのプロットを内戦下のロード・ムービーとして展開するという発想は面白いと思います。ただ、時間的制約ゆえか、演出はこなれていない面が目立ちます。それが妙にA24っぽさを感じさせ、それはそれで楽しめます。映画の性格上、決定的な戦闘シーンは避けがたく、それをホワイトハウス内に絞り込んだのは、撮影上も予算上も良い着想だったと思います。ちなみに、戦闘シーンは、独特なキレがあって、良く出来ていたと思います。最高額となった製作費は、主に戦闘シーンに費やされたのでしょう。

しかし、映画のなかで、最も重要と思われるシーンは、ホワイトハウスにおける戦闘シーンではありません。ジャーナリストたちたちが、殺害した多くの住民を埋めている西軍兵士に遭遇するシーンこそが、この映画の肝なのでしょう。西軍兵士がやっていることは、リーダーの冷酷さや人種差別を含めて、明らかにナチスを想起させるねらいがあると思われます。映画は、反旗を翻した側にも連邦側に対しても中立的であることに気を使っています。ただ、このシーンだけが、製作側のスタンスを鮮明にしてます。西軍のリーダー役のジェシー・プレモンスは、リアルな冷酷さを見事に演じています。プレモンスを起用したあたりにも製作側の思い入れを感じます。しかもプレモンスは、なぜかノンクレジットでの出演です。

急いだせいか、脚本にも、演出にも詰めの甘さを感じる映画ですが、ベテラン報道カメラマンを演じたキルスティン・ダンストの存在が映画を引き締めていると思います。キルスティン・ダンストは、子役時代から切れ目なく活躍するベテラン女優です。画面に出ているだけで存在感を示すことができる希有な役者の一人です。近年で言えば、ジェーン・カンピオンの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(2021)でアカデミー助演女優賞にノミネートされています。キルスティン・ダンストを起用した製作陣の慧眼には脱帽ものです。ちなみに、キルスティン・ダンストは、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」でも共演したジェシー・プレモンスとは実生活でも夫婦です。プレンモンスが、本作にノンクレジット出演した背景でもあるのでしょうか。(写真出典:eiga.com)

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