2024年10月10日木曜日

梁盤秘抄#32 BLACK & WHITE NIGHT

アルバム名:BLACK & WHITE NIGHT(1989)                                                  アーティスト:ロイ・オービソン

1987年、LAのアンバサダー・ホテル内のココナツ・グローブで行われたライブを録音したアルバムです。翌1988年末、ロイ・オービソンは心筋梗塞のため、52歳で急逝します。本アルバムは、死後の1989年にリリースされています。今はなきアンバサダー・ホテルは、かつてLAを代表するホテルでした。1968年、ロバート・ケネディが暗殺された場所でもあります。ココナツ・グローブは、やはりLAを代表するナイトクラブであり、大物たちがライブを行い、アカデミー賞の授賞式も行われていました。ホテルが面するウィルシャー・ブールバードの治安悪化とともに、ホテルも廃れていきました。1987年、私が訪れた時には開店休業状態でした。

ロイ・オービソンと言えば、「オー・プリティ・ウーマン」ということになります。オリジナルは、1964年に全米No.1ヒットになっています。1982年には、ヴァン・ヘイレンがハード・ロック的にアレンジしてヒットさせています。そして、1990年に公開された映画「プリティ・ウーマン」の主題歌として使われると、映画の世界的ヒットとともに爆発的なリバイバル・ヒットになりました。アメリカ放送音楽協会の「20世紀アメリカのテレビやラジオで最もオンエアされた100曲」では26位にランクされています。誰もが聞いたことのある曲と言ってもいいいのでしょう。ちなみに、リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが主演した映画は、現代版マイ・フェア・レディですが、その年の全米興行収入No.1になっています。

「オー・プリティ・ウーマン」は、確かに名曲だとは思いますが、ロイ・オービソンの魅力を伝えている曲だとは思いません。あの独特で滑らかな声は、うっすらとした哀愁をモダンに都会的に表現した時、唯一無二の境地を生み出すと思っています。私は「Blue Bayou」(1963)が一番ロイ・オービソンらしいと思っています。故郷のバイユー・カントリーと残してきた恋人を思う歌です。今でも、聞けば、ノスタルジックな色調を帯びた緩やかな哀愁に酔うことができます。1977年には、リンダ・ロンシュタットがカバーして大ヒットさせています。偉大なリンダですから、切々と歌い上げるカントリーの名演に仕上がっているのですが、オリジナルとはムードがまるで違います。Blue Bayouは、やはり、ロイ・オービソンに限ります。

似た曲調の歌に「クライング」(1961)があります。失恋した男の歌です。これもロイ・オービソンらしさがよく出た曲だと思います。これまたドン・マクリーンのカバー・ヴァージョンが大ヒットしています。デヴィッド・リンチの意味不明映画「マルホランド・ドライブ」(2001)でも効果的に使われていました。デヴィッド・リンチは、ロイ・オービソンがお気に入りと見えて、「ブルー・べルベット」(1986)では、ボビー・ヴィントンの同名ヒット曲(1963)とともに、ロイ・オービソンの「イン・ドリームス」(1963)が象徴的に使われており、映画の独特なムードとともに、いつまでも耳に残りました。ロイ・オービソンの歌は、すんなりと入ってきて、妙にいつまでも残るという、とても不思議な魅力があります。

ロイ・オービソンは、1936年、テキサスのヴァーノンで生まれています。子供の頃から、TVやラジオに出演しており、19歳でレコード・デビューしています。1960年代から低迷期に入りますが、1987年にはロックの殿堂入りを果たしています。デビューから32年が経っていました。このアルバムが録音されたココナツ・グローブでのライブは、殿堂入りのお祝いを兼ねていたのでしょう。ライブには、ロイ・オービソンを敬愛する多くのミュージシャンが集まり、バックバンドとして演奏に参加しています。ブルース・スプリングスティーン 、ジェームズ・バートン、エルヴィス・コステロ、トム・ウェイツ、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット等々、豪華なメンバーになっています。翌年、突然、ロイ・オービソンが亡くなるとは、誰も思っていなかったはずです。(写真出典:amazon.co.jp)

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