2024年9月5日木曜日

ツイン・ピークス

TVシリーズ「ツイン・ピークス」は、1990~1991年、シーズン1と2がアメリカのABCで放送されました。ちょうどNYに駐在していた頃です。デイヴィッド・リンチが、初めてTVシリーズを撮るというので、放送前から話題になりました。普段は、TVドラマなど見ないのですが、大いに期待して見ました。歴史的名曲とされるあのテーマ曲が流れた瞬間、これはやられたと思いました。TVドラマの枠を超えて展開されるデイヴィッド・リンチ・ワールドに全米が熱狂し、社会現象と言われるほどでした。放送開始からほどなくして、ニューズ・ウィーク誌が、ツイン・ピークスを特集し、登場人物の相関図まで載せていたことを覚えています。30年経った今でも、世界中からロケ地を訪れる人が絶えないというのですから、たまげます。

デイヴィッド・リンチは、自身の映画製作のために多忙だったこともあり、シーズン2への関与は限定的でした。また、大ヒットに気を良くしたABCが製作に口出しをはじめたため、シーズン2はグダグダになっていきます。視聴率も大幅に低下し、シーズン3が製作されることはありませんでした。最大の問題は、視聴者の声に押されてローラ・パーマー殺人事件の犯人をシーズン途中で明かしたことだとされます。ただ、ツイン・ピークスは、異界に関わる一つのサーガであり、ローラ・パーマーの殺人は単なるマクガフィンに過ぎません。とは言え、視聴者はフーダニットに熱中してしまったわけです。そうさせたのはABCの責任であると同時に、1本の映画ではなく長期に渡るTVシリーズだという認識が不十分だったデイヴィッド・リンチの責任でもあると思います。

シーズン3は、全編、デイヴィッド・リンチとマーク・フロストが脚本を書き、デイヴィッド・リンチが監督しています。今回は、反省を踏まえて、一気に全ての撮影を行い、それを分割してTVシリーズ化したようです。日本ではWOWOWの独占放送でしたが、今般、Amazon Primeで配信されたので、ようやく見ることができました。シーズン3では、デイヴィッド・リンチが、好き放題に独自の世界を展開しています。デイヴィッド・リンチを楽しむためには、映像が意味することを深掘りしたり、散発的なストーリーをつなげようなどと考えず、ひたすら奇妙でシュールな世界をそのまま受け入れることです。そこで感じる違和感は感性を解放する効果があり、精神的自由を感じることになります。それがデイヴィッド・リンチ映画の魅力です。

当然、世界観やキャラクターは前シーズンからしっかり継続されていますが、驚いた事にキャストもオリジナル・メンバーが徹底的に再起用されています。”あれから25年”という設定が利いており、実年齢を重ねた出演者たちの姿がまるで同窓会状態でした。また、デビット・ボウイなど亡くなった役者については、過去の映像をうまく使っています。デイヴィッド・リンチ・ファミリーも勢揃いですが、今回はファミリーの大御所ローラ・ダーンも、前シーズンでは姿が見えないままだったダイアン役で登場しています。短いシーンながら、モニカ・ベルッチまでが本人役で登場していました。舞台はツイン・ピークスから広がり、ラス・ヴェガス、サウス・ダコダのバックホーン、さらにはNYやブエノスアイレスも登場します。

音楽へのこだわりもデイヴィッド・リンチらしいところです。オープニングは、当然、アンジェロ・バダラメンティの名曲ですが、エンディング・テーマは、お馴染みの“バン・バン・バー”、通称”ロードハウス”でのライブという設定になっています。前シーズンでもジュリー・クルーズがライブで歌っていましたが、今回は、クロマティックス、ナイン・インチ・ネイルス、オルヴォァ・シモーネ等々、いかにもデイヴィッド・リンチ好みのバンドが登場します。ライブ・シーンには、前と同じく町の実情が垣間見える客の会話シーンが挿入されます。うまい仕掛けです。回が進むと、今回はどんなバンドが出演するのか、どんな会話がなされるのか、楽しみになっていきます。他にも、オーティス・レディング、ブッカーT&MG'S デイブ・ブルーベック、サント&ジョニー等の曲が効果的に挿入されています。(写真出典:tvtropes.org)

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