近年、一部の気象学者の間で、日本の亜熱帯化という議論があるようです。その大きな根拠として、黒潮の流れが変わったことが挙げられています。黒潮は、フィリピン周辺から北上する暖流で、日本列島に沿って房総半島沖まで達します。その後、東へと流れていきますが、一部は三陸沖にまで達し、南下してきた寒流である親潮とぶつかって世界三大漁場の一つを生みます。黒潮は、たまに紀伊半島沖で蛇行することが知られています。黒潮の大蛇行と呼ばれる現象は、一度発生すると1年以上に渡って継続するとされます。ただ、2017年に発生した大蛇行は、現在、7年を超えて継続しています。さらに、その影響から、黒潮は房総半島沖を越えて、東北北部にまで北上し、日本近海の海水温を押し上げています。
大気の流れと違い、海流は、そう簡単には変わらないようです。日本近海の海水温の上昇率は世界一と聞きます。黒潮の影響がいかに大きいかということです。今年の夏は灼熱地獄に大型台風と大荒れでしたが、今後、しばらくはこの状態が続くと覚悟する必要があります。農業や漁業への影響も大きなものがあります。伝統的な農業・漁業から、暑さを前提とした農作物の栽培、黒潮の流れを考慮した漁への転換が求められることになります。近年、魚沼産コシヒカリは、天候不順の影響を受け、厳しい状況に置かれています。新潟県は、2017年、”新之助”という新種米を投入しました。高温障害や気象災害のリスクと収穫作業の分散をねらった晩生品種とのことです。変更の負荷が大きくとも、こうした亜熱帯化への対応を急ぐべきなのでしょう。
亜熱帯化は、台風や降雨量にも大きな変化をもたらしています。土砂災害に関しては、ハザードマップや注意喚起に留まらない対応が求められます。過日の台風10号では、新宿駅西口のマンホールが宙高く飛ばされる映像に驚きました。都市部では河川の氾濫リスクだけでなく、下水溝のキャパシティが大きな問題となっています。かつてホーチミン市で、強烈なスコールに襲われたことがあります。驚いたのは、下水のキャパの大きさと道端の排水口の大きさです。排水口は、小学生くらいなら、簡単に吸い込まれそうな大きさで、グレーチングもありませんでした。短時間に降る膨大な雨量への対応なのでしょう。日本の都市部の下水の排水量は時間50mが限界と聞きます。これもお金と時間がかかっても変えていくべきだと思います。
亜熱帯へと気候区分が変われば、伝統的な衣食住や文化も大きく変化することになります。個人の対応だけでは不十分であり、国をあげた大規模な取組が求められます。ギリシャでは、戸外で働く業種に対して、午後の労働を禁じる法律が施行されました。それに伴う社会的負荷はとても大きいと思いますが、国民の命を守るという観点からすれば、まっとうな取組だと思います。今後、注目すべきは、1月の平均最低気温だと思います、東京は2度くらいですが、それが10度に近づくことがあれば、亜熱帯化はほぼ確定ということになります。日本が気候激変という未曾有のリスクに直面する最中、政権与党は親分選びのゲームに興じています。まるでブラック・ジョークです。世も末だと言わざるを得ません。それにしても、生きているうちに、地球と日本が破滅へと向かう姿を目にするとは思っていませんでした。(写真出典:rinya.maff.go.jp)