2024年8月14日水曜日

「ツイスターズ」

監督:リー・アイザック・チョン     2024年アメリカ

☆☆☆ー

家族や恋人たちが、巨大なポップコーンとソーダを抱え、キャーキャー騒ぎながら楽しめる映画は、アメリカの文化そのものであり、大事にすべき伝統だと思います。本作も、実にアメリカらしい娯楽映画です。1996年に、ストーム・チェイサーを描いて大ヒットした「ツイスター」の続編という位置づけです。ただ、ストーリーも登場人物も何の関連もありません。前作との大きな違いは、トルネードを単に恐ろしい天災としてではなく、コントロールすべき対象という視点で描いている点だと思います。良い着想だと思いますが、やや似非科学的なところが気になります。映画に登場するトルネード消滅策が有効であれば、実際に行われているはずです。

ところが、トルネードは、依然として、自然の猛威のままです。対策と言えば、発生予測、早い警報、地下室などシェルターへの避難ということになります。発生のメカニズムは解明され、理論上の消滅策もあるのですが、実際には、いつ、どこで発生し、どこへ向かうのかが特定しづらく、何よりもそのスピードの早さゆえに対策が打ちにくいのでしょう。映画で取り上げられている高分子吸水材とヨウ素銀を使う方法も理論的には正しいのでしょう。ただ、トルネードの中心に入り込むこと自体が非現実的と言えます。所詮、フィクションの世界の話ですが、妙にリアルなところが危ういと思います。真似する奴が出てこなければいいのですが。どうせなら、思いっきり空想的な手法の方が良かったようにも思います。

1996年のツイスターは、スピルバーグ総指揮、脚本をマイケル・クライトン、監督がヤン・デ・ポンという豪華な制作陣で大ヒットを飛ばしました。スピルバーグは、今回も制作に名を連ねています。監督は、「ミナリ」で高い評価を得た韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンです。とても意外感な起用ですが、トルネード・アレイのアーカンソーで育ったというだけあって、見事にトルネードの偉容と恐怖を捉えています。原案は「トップガン: マーベリック」の監督ジョセフ・コシンスキー、脚本は「レヴェナント」のマーク・L・スミスというヒット・メイカーを並べています。ただ、脚本は、複数の要素が縦糸に収斂していく醍醐味に欠けます。時間がなかったのかもしれませんが、整理不十分と言わざるを得ません。

主演は、英国人俳優のデイジー・エドガー=ジョーンズです。「ザリガニの鳴くところ」(2022)での不思議な存在感が評価されての起用なのでしょうが、ミス・キャストだと思います。ザリガニはディープ・サウスの不思議な世界だったので彼女の演技が成立したと思います。今回はネイティブな南部女のたくましさが欲しい役柄でした。線の細い彼女の起用には無理があったと思います。また、この手の映画では、サブ・キャストのキャラクターが、一目で分かるほど漫画的であるべきだと思いますが、そこも弱い感じがあります。演出というよりも十分に練り込まれていない脚本の問題だと思います。よくスピルバーグがゴー・サインを出しな、と思います。結果、大ヒットしたので良かったのかもしれませんが。

この映画がヒットした背景には、明らかに昨今の天候不順があると言えます。トルネードは、トルネード・アレイを外れた南東部でも多く発生し、しかも毎年5~6月のストーム・シーズン以外でも頻発しています。そうした状況を受けて、急遽、制作が決まったのかもしれません。今後、ストーム映画が増えるようにも思います。アメリカでは、トルネードに襲われた場合、地下室がなければ、バスタブに身を隠せと言われます。陶器製のバスタブ自体が重いことに加え、配管が地中へとつながり固定されているからです。実際にバスタブで助かったケースも多いようです。今回、空のスイミング・プールへ避難して助かるシーンがあります。やや誤解を生みやすいシーンだと思いました。プールで助かったのは、配管にしがみついた人だけでした。プールではなく、地中に固定された配管のおかげだったわけです。(写真出典:wannerbros.co.jp)

マクア渓谷