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Fuet de Vic |
ソーセージの歴史はとても古く、最も古い文献としては、紀元前8世紀にホメロスが著わした「オデュッセイア」とされます。ソーセージという言葉は、古代ローマの塩漬けにするという意味のサルススが語源とされます。ドライ・ソーセージの歴史もはっきりしないものの、少なくとも古代ローマには存在していたようです。イタリアを代表するドライ・ソーセージと言えばサラミですが、やはり食塩を意味するサレが語源と言われます。ちなみに、サラミには、ミラノ・タイプとナポリ・タイプがあります。その大きな違いは、ミラノが豚と牛を使い、ナポリが主に豚ということになります。見た目で言えば、ミラノは粒々の脂肪を散りばめてあり、ナポリの方はフエなどと同じくドライ・ソーセージに一般的な外見になっています。
初めてスペインに行ったのは、45年前のことですが、その時、フエを食べた記憶がありません。マドリーやトレド、アンダルシアを回り、カタルーニャに行っていないので、口にしなかったのかもしれません。ひょとすると食べたのかもしれませんが、ハモン・セラーノの強烈な印象に負けたのだろうとも思います。当時の日本では、ハモン・セラーノを食べる機会など限られていたので大感動しました。ハモン・セラーノは、塩漬けにした白豚のもも肉を低温で長期間乾燥熟成したものです。ハムとソーセージの大きな違いは、そのままの肉を使うか、ミンチ肉を使うかという点です。日本では生ハムという呼び方が一般的ですが、加熱していないので生と呼ぶのでしょう。スペインでハムと言えば、生ハムのことです。
それにしても、発酵が人類にもたらす恩恵には、いつも驚かされます。人類最大級の発見の一つだとも思います。人類が発酵を活用し始めたのは、新石器時代の中央アジアだったとされます。空気中には、乳酸菌などの他に有害な腐敗菌等も多く漂っています。中央アジアは、低温で乾燥した土地柄、有害な菌が少なかったのではないかと言われます。人類は、発酵を主に食品の長期保全とアルコールの生成に活用してきました。長期保存が目的とは言え、発酵は、食品を美味しくかつ吸収しやい状態へと変化させるという恩恵ももたらします。白カビ発酵をさせた食品としては、ドライ・ソーセージ類の他に、清酒、味噌、醤油、本枯れ鰹節、あるいは貴腐ワインなどがあります。白カビチーズと呼ばれるカマンベールやブリーに使われるのは、実は青カビの一種だそうです。
最も有名なフエと言えば、フエ・デ・ヴィックです。ヴィックの街は、バルセロナの北の山中にあります。伝統的なヴィックのフエが使う調味料は、海塩と胡椒だけです。中世まで、胡椒はイスラム商人がインドから欧州に運んでいました。極めて貴重なもので、胡椒の値段は、同じ重さの黄金に匹敵したとも言われます。15世紀末、ポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を回って、インド航路を切り開いたことで、胡椒の値段は大いに下落します。現在に至るフエの製法は、ヴァスコ・ダ・ガマ以降に始まったということになります。誤解されがちな話ですが、、ダ・ガマが喜望峰を回ってまで胡椒を求めたのは、肉を保存する、あるいは肉を美味しく食べるためではありません。ひたすら金儲けのためです。(写真出典:spanishoponline.com)