映像、演出、演技もさることながら、前作と比べ、より原作や史実に忠実であること、西洋寄りにならない中立性を保っていること等も評価されているようです。原作者の娘が製作総指揮陣に入り、主演の真田広之もプロデューサーを兼ねていることが良い効果を生んでいるのでしょう。とは言え、日本人にとってみれば、史実をつまみ食いしたフィクションは、やはり気にはなります。細部に関して言えば、よくあるエキゾチシズムだけを狙った日本の描写はかなり改善されていますが、やはり違和感を覚える箇所も多々あります。もちろん、世界中の視聴者を考えれば、ごく正確に当時の日本を再現することが良いとも限りません。少なくとも、やたら説明しなければならないシーンが増えることでしょうから。
撮影は、日本で行う予定だったようですが、システム・ネットワークの脆弱さゆえ、カナダに変更されたとのことです。日本にとっては、やや悲しい理由です。ま、CGやAIの時代ですから、どこで撮影しても問題ないのでしょう。撮影場所が日本ではなかったため、今回は著名な日本人俳優の出演は限られています。主演の一人である鞠子役には、ニュージーランド生まれの日本人アンナ・サワイが起用されています。日本での芸能活動を経て、ハリウッドで活躍中の女優とのことです。真田広之、浅野忠信、コスモ・ジャービス、そしてアンナ・サワイの演技が、キャラクター設定を見事に際立たせ、物語を分かりやすく、没入しやすいものにしています。二階堂ふみも、淀君と思しき複雑な役で、さすがの演技を見せています。
世界中には、私も含めて「ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)」ロスの人が山ほどいるはずです。柳の下をねらったファンタジーが多く作られましたが、壮大さにおいてGOTを超えるものはありませんでした。本作は、全く異なる切り口からアプローチしたことで、GOTに迫る仕上がりになっていると思います。例えば、欧米人には理解しにくい日本のストイックな組織主義をあえて基調に据えることで、対立と裏切りの構図をより深みのあるものにしています。それが実現できたのは、抑制の効いた全体のトーンと主演陣の演技によるところが大きいと思います。同様に、ほぼ全編を日本語で通すという思い切った判断も、リアリズムを高める効果があったと思います。GOTのために創作された高地ヴァリリア語とドスラク語を思い起こさせます。
大ヒットを受けて、既にシーズン2、3の制作が決定しているとのことです。GOTは、1年に1シーズンというサイクルでした。私は一気見が好きなので、2~3日のために1年待つというしんどい数年間を過ごしました。同じことが起こりそうです。今回想定された時代設定からすれば、シーズン2は関ヶ原の戦い前後、シーズン3は大坂の陣ということになるのでしょう。今回の比ではなく戦いのシーンが増えます。予算も膨大なものになるのでしょう。余談ながら、昨今の円安もあり、インバウンド客の増加は著しいものがあります。想像するに、本作の世界的ヒットを機に、日本の歴史に興味を持つ人が増え、日本の歴史を探訪したいというインバウンド客が増加するのではないかと想像できます。家康、あるいは戦国末期ゆかりの地では、今から受け入れ準備をした方がいいと思います。(写真出典:disneyplus.disney.co.jp/)