酸性である酒類は、歯のエナメル質を溶かす性質があります。ただ、さほどの酸性でもなく、毎日、長時間飲み続けなければ、問題ありません。焼酎は戦後の混乱のなかで普及した安酒というイメージが強かった時代とも言えます。ところがTVCMをきっかけに、1970年代にはお湯割り、80年代にはチューハイのブームが起き、焼酎はメジャーな存在になります。さらに2000年代に入ると本格焼酎ブームが起き、ついには出荷量において日本酒を凌駕するに至ります。人気を博したのが芋焼酎でした。昔の芋焼酎は翌日まで口に臭みが残ったものです。ところが製法が進化して臭みは無くなり、良い風味だけが残るようになりました。また、糖質やプリン体を含まない焼酎は、健康指向に合致した面もあるのでしょう。
実は、焼酎が清酒を抜いた頃から、酒税法で言うところのリキュール類が課税数量を伸ばし、焼酎と清酒の合計を超えていくことになります。リキュールの定義は、アルコール以外のエキス分が2%以上含まれるものとされます。要はチューハイやサワーです。エキス分2%未満のチューハイ類は、ジンやウォッカと併せスピリッツと分類されます。リキュールとスピリッツを合算した課税数量は、清酒と焼酎の合計の3倍以上となります。おじさんたちが清酒派だ、焼酎派だと言っている間に、若者たちはチューハイやサワーに流れていたわけです。チューハイやサワーは多様化が進み、飲み口の良い商品が多く出回っています。どうも酒類は大きな変革の時にあるように思えます。
酒類多様化の背景には、脱アルコール、あるいは低アルコール化という流れも関係しているのでしょう。その一つの象徴がノンアルコール・ビールだと思います。既にビールの代用品という位置づけを超えています。2017年に発売された「キリン零ICHI」の美味しさには驚きました。ビールにアルコール分など必要ないのではないか、とさえ思ったものです。アルコール分0%のビールは清涼飲料水扱いなので、コンビニによっては中学生も買えます。さらに言えば、中学校の校舎内の自販機に置くことも可能なはずです。ただ、革新的に聞こえる”ノンアルコールのアルコール飲料”ですが、実は単なるキャッチ・コピーに過ぎません。実体は、あくまでも清涼飲料水なわけですから、酒の革新でもなんでもないわけです。
血行促進、食欲増進、ストレス解消、高揚感といった酒の効用が、人類にとって必要であることに変わりはないと思います。多様化が進むのは結構なことですが、それによって伝統的な酒のマーケットが縮小、消滅することがあってはならないと思います。ところで、伝統的なリキュールには、とても魅力的なものが多く、コアントロー、アマレット、カンパリ、アペロール、カルーア、アイリッシュ・クリーム、ディタ等々、あげればキリがありません。私もチューハイやサワーを飲むことがありますが、画一的で薄っぺらい味が多いように思います。若い人たちには、是非とも、世界中に存在する伝統的な本物のリキュールの味も知っていただきたいものだと思います。(写真出典:kakakumag.com)