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La Paz |
NY時代に聞いた話ですが、さる駐在員の奥さんがマチュ・ピチュで高山病を発症し、ふらついて谷底へ転落、亡くなったというのです。マチュ・ピチュの標高は2,430mとされますから、個人差はあるにしても高山病を発症してもおかしくない高さです。登山などで発症するのは急性高山病であり、低地へ移動するのが最善の治療と言われます。症状が重い場合には、酸素吸入、水分補給、加圧、そして非オピオイド系鎮痛剤などの薬物が用いられるようです。予防薬もありますが、その効用は個人差があるようです。登山なら下山すれば良いわけですが、高地へ赴任した駐在員ともなれば、状況は大きく異なります。ボリビアのラパスへ赴任した人の話を聞いたことがあります。
ラパスは、世界の首都のなかで最も標高が高いと言われます。3,600mの高地にあるラパスには75万人が暮らしています。すり鉢状の地形ゆえ、市内でも標高差は数百メーターになると言います。赴任した当初は、急性高山病を発症するのだそうですが、低地へ移動するわけにはいかないので、酸素吸入等でしのぐしかないようです。自宅やオフィスには酸素ボンベが常備されているようです。しばらくすると多少体も慣れてくるようですが、風邪の初期症状のような体況が続き、運動やアルコールは避けなければならないと聞きました。一番、厳しいのは睡眠不足に陥ることだと話していました。いつも一呼吸足りない感じなので、熟睡できないらしいのです。
そこで各社は、高度に応じて年数回の低地休暇を設け、高度の低いところへ移動し、ゆっくり眠って体力を回復させるという方策をとっているようです。政情不安定、治安劣悪といった任地に関しては、しばしば危険地手当が支給されます。同様に、生活環境が厳しい任地については、家族全員を定期的に一時避難させる休暇制度もあります。戒律の厳しいイスラム国家、あるいは治安が悪く物価が高騰していたブラジルなどでは、欧州や米国への休暇旅行が制度化されていました。同じ会社のサンパウロ駐在員のNYへの一時避難休暇を受け入れたことがあります。空の大きなスーツケースをいくつか持ってきて、日本食を買い込んで帰っていきました。NY駐在など海外駐在員のうちにも入らないな、と思ったものです。
中国政府が、青海省とチベットのラサを結ぶ青蔵鉄道を全線開通させたのは2006年のことでした。全長2,000km弱、最高地点の海抜は5,071m、平均海抜も4,500mという信じがたい鉄路です。一度乗ってみたいものだと思いましたが、NHKのドキュメンタリーを見て、すぐにあきらめました。世界一の高地を走る鉄道の動力は、高地仕様に改良されたディーゼル・エンジンです。客車は気密性と断熱性を強化したうえで加圧されたボンバルディア社特性の車両が使われています。もはや列車ではなくレールの上を走る飛行機なわけです。客車のいたる所に酸素吸入器が備付けられています。万が一、事故や故障で停まることがあれば、ことは命に関わるわけです。実に恐ろしい鉄道です。その素晴らしい景色は魅力的ですが、命を懸けてまで見に行こうとは思いません。(写真出典:gravitybolivia.com)