2024年4月28日日曜日

「ゴッドランド」

監督:フリーヌル・パルマソン 2022年アイスランド、デンマーク、フランス、スウェーデン

☆☆

19世紀、デンマーク植民地下のアイスランド、言葉の通じない土地での布教と教会建設を命じられた若き神父、観る前から重厚感漂うお膳立てです。そして、アイスランドの厳しくも美しい自然を見事に捉えた映像、重い音楽などとくれば、高評価間違いなしの映画を予感させます。実際に、本作は、高い評価を得ています。ところが、何か決定的なものが欠けているように思いました。例えて言うなら、マグロの入っていない鉄火巻きといった風情です。重い映画であることは間違いないのですが、雰囲気だけが重く、テーマとしての重さが伝わってこないのです。何か、作品のテーマが絞りきれずに、フォーカスを失っているように思えました。

過酷な環境のなかで信仰心が試され、そして揺らいでいくというプロットなのでしょうが、そこに植民地アイスランドと宗主国デンマークとの関係という視点がかぶってきます。自然主義的な演出であれば、随分と違っていたのかもしれませんが、重く押し込んでくる展開にも関わらず、何を押し込まれてるのか判然としませんでした。様々なアイデアを、脚本段階で整理し切れていなかったように思えます。そのことは、終盤の展開によく現れていると思います。テーマが絞り切れていないために、終わり方も中途半端になり、何やら終わるに終われずズルズルしているという印象です。映画は、19世紀の牧師が残した写真にインスパイアされたとしていますが、映像イメージだけが先行してしまったのかも知れません。

深そうなテーマであり、深そうな展開なのに、結果的には表面的な印象に留まってしまったことには、私の予見が関わっているかもしれません。北欧映画と言えば、当然、ルター派の功罪に関する洞察、あるいは神の不在といったテーマだろうと思い込んでいました。マルティン・ルターの宗教改革は原理主義運動ですが、その思想を最も直接的に継承しているのがルター派なのでしょう。北欧の精神風土はルター派の信仰によるところが大きいと思います。聖書の言葉に厳格、厳密に従うルター派のもとでは、時に神の不在という問題が起こり、多くのアル中や自殺者を生む傾向も現れます。宗教的なテーマを持つ北欧映画にとって、ルター派の功罪を問うことは、避けて通れない道なのだと思っています。

無人の島だったアイスランドに人が住み始めたのは10世紀頃だったようです。アイスランドの歴史は、ヴァイキングによる植民に始まります。世界で最初の議会とされるアルシングが始まったのもこの頃とされ、中断はあったものの、現在も形を残しています。13世紀にはノルウェーの植民地となり、同時にキリスト教化されます。14世紀にはデンマークも宗主国となり、16世紀にはルター派への改宗が強要されています。国家としての独立こそ20世紀初頭になったものの、アイスランドは、経済的、政治的、文化的にも成熟を遂げていきます。映画は、まるで大航海時代に辺境の地にキリスト教の布教に出かけたかのような風情を持ちます。厳しい自然は理解できても、どうにも違和感を感じてしまいます。

アイスランドと言えば、火山です。本作にも火山の映像が登場します。ま、アイスランドだから火山も出しておくか、といった感じで、脈絡なく、こけおどし的な登場の仕方をします。牧師の心情変化を象徴したかったのかも知れませんが、そうだとすれば見事に失敗しています。映像に関する技術もセンスも優れた監督だとは思います。それだけに、映像イメージだけが先行してしまったのかも知れません。次回は、それなりの脚本家と組んだ方がいいのではないかと思います。(写真出典:eiga.com)

マクア渓谷