津軽海峡には、対馬暖流から分岐した津軽暖流が西から流れ込み、東からはオホーツク海から下ってきた親潮が入り込んでぶつかります。しかも、氷河期に深く削られたという深い海底谷があり、潮の流れが速くなるようです。世の中には、海峡を泳いで渡ろうとする人たちがいます。対岸が見えているだけに、挑戦したくなる気持ちは理解できます。しかし、見た目より距離があり、かつ速い潮の流れが難敵となります。さらに海洋生物類との接触も懸念されます。海峡横断は、かなり危険な挑戦と言っていいのでしょう。遠泳だけなら、昔からマラソンと同じ扱いで学校行事の“根性枠”に入っていたものです。近年、遠泳はオープン・ウォーター・スイミングと呼ばれ、オリンピック種目にもなっています。
オープン・ウォーター・スイミングの最高峰と言われるチャレンジが「オーシャンズセブン」です。世界の七つの海峡を泳いで渡るという挑戦であり、2012年、アイルランドのスティーブン・レッドモンドが、最初の達成者になっています。七つの海峡とは、ノース海峡 ( アイルランド・スコットランド間22km)、クック海峡(ニュージーランド北島・南島間23km)、カイウィ海峡(モロカイ島・オアフ島間41.8km)、イギリス海峡(英仏間34km)、カタリナ海峡(サンタカタリナ島・ロサンゼルス間33.7km)、ジブラルタル海峡(スペイン・モロッコ間14.4km)、そして津軽海峡の30kmです。津軽海峡は、スティーブン・レッドモンドが挑んだ七つ目の海峡であり、最も厳しい挑戦だったと語っています。
10年ほど前のことですが、役人から聞いた話があります。中国の政府要人や軍幹部が日本を訪れると、決まって津軽海峡に行きたがるというのです。中国にとって、津軽海峡は、戦略上、極めて重要性だということに他なりません。中国から北米に向う際、津軽海峡を通過する航路は、最も経済的なルートであり、また軍事面から見れば、まさにチョークポイントにもなるわけです。裏返せば、日本にとっても、津軽海峡は、戦略上、極めて重要な地点ということになります。ところが、津軽海峡の中央部は、日本の領海になっていません。領海とすることができるにも関わらず、中央部は公海とされました。昔から、まったく理解できない馬鹿な話だと思っています。
日本の領海法は、1977年に公布され、12海里(約22.2km)までが領海とされました。ただし、津軽海峡、対馬海峡、宗谷海峡等は3海里までとされます。政府見解によれば、国際的な自由通行促進の観点からの措置ということになります。領海としたうえで、航行の自由を認めればいいだけのことですし、実際、国際法上、国際海峡における通過通航権も認められています。実は、この判断の背景にあったのは、日本政府の核兵器に関する基本スタンスである非核三原則「持たず、作らず、持ち込ませず」だったと言われます。津軽海峡を領海化しても、核兵器を搭載した米海軍艦艇が通過することも想定されます。これが「持ち込まず」に抵触するという批判を避けたかったわけです。開いた口が塞がりません。目先の都合で国益を見誤ったアホな判断だと思います。(写真出典:trafficnews.jp)