2024年1月19日金曜日

「ギミー・デンジャー」

監督: ジム・ジャームッシュ      2016年アメリカ

☆☆☆☆ー

イギー・ポップは、”パンクのゴッドファーザー”と呼ばれているようです。個人的には、ロックンロールの原理主義者であり、解放者なのだろうと思っています。イギーの音楽は、新しく創造されたジャンルではありません。ロックがもともと持っていた精神に原点回帰したということだと思います。イギーの影響を受けたロッカー達が、いまだに世界中で演奏し続けています。それほどイギーの音楽はファンダメンタルな要素にあふれていると言えます。ただ、私にとってイギーは縁遠い存在です。イギーとストゥージズが世に出た頃、私はジャズやソウルに浸っていたからです。その私ですら、イギーによって解き放たれた連中が繰り広げたパンクやそれに続くガレージ・ロックといった音楽は気になったものです。

イギーは、自分のドキュメンタリーを撮影するとすれば、親交のあったジム・ジャームッシュ以外の監督は考えられないと語り、本作が実現したようです。ジム・ジャームッシュは、7年をかけてイギーやストゥージズのメンバー等へのインタビュー、あるいはライブの映像を撮り続け、本作を完成させたようです。そんじょそこらの音楽ドキュメンタリーとは大違いの作品になっています。イギーの経験したこと、周囲で起こったことなどを年代記的に記録するのではなく、イギーという一つの反逆的精神がたどった道をドラマ化したような作品です。見終わった後の印象は、まさしくジム・ジャームッシュのロード・ムービーから受ける印象そのものでした。

ロックンロールという音楽を生んだのはアメリカでも、それを若者の精神や文化の支柱にまで昇華させたのはイギリスだと思います。英国の階級社会が持つ閉塞感がゆえなのでしょう。ロックは、英国の若者たちに、怒りやいらだち、あるいは自由を希求する思いを表現する機会を与えたのだと思います。ビートルズも、当初、アンシャンレジームに対する反発心を持っていたのでしょうが、その人気が社会現象化すると、ヒット・チャートという商業システムに組み込まれていきます。それに飽き足らない若者たちは、ブルースへと走り、ニュー・ロック、アート・ロック、プログレッシブ・ロックへと展開していきます。まさにカウンター・カルチャー真っ只中という時代であり、若者達は熱狂しました。

しかし、それは反体制的であっても、ロック・スピリットからは離れていく道でもありました。そこに、プリミティブなロック・スピリットむき出しで登場してきたのがイギー・ポップでした。しかも、大都会ではなく、時流に敏感とも思えないミシガン州アナーバーから出現しました。そのことはとても重要な要素だと思います。イギーのユニークなステージ・パフォーマンスは、ドアーズのジム・モリソンに影響されているようです。演出的ではなく、よりスポンテニアスな体の反応だと思います。暗黒舞踏に通じるものも感じさせます。イギーがステージ上で派手に動く一方、他のメンバーは定位置で黙々と演奏を続けます。これも、世界初と言われるイギーのダイブと同様、その後に大きな影響を与えた演奏スタイルだと思います。

いまだに高い人気を誇るローリング・ストーンズは、商業的成功とロック・スピリットを両立させた希有なバンドだと思います。シンプルな編成に戻して行われた2014年の東京ドーム公演では、70歳を超えてなお不良であり続けるストーンズの姿に感動しました。人間、やはり体制的になってはいけない、と強く思わされたものです。週2回ほどジムへ通っていますが、有酸素運動がきつくなってきた終盤、必ず聞いているのがTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」です。10年ほど前にギターのアベフトシが亡くなり、昨年暮れにはヴォーカルのチバチャンも亡くなりました。早すぎる死です。MICHELLE GUNも、ある意味、イギーの後継者たちと言えるのでしょう。その音楽は、いまだに、なぜか力を与えてくれます。恐らく、自分は自由だ、と思わせてくれるからなのでしょう。(写真出典:filmarks.com)

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