2023年12月30日土曜日

年越し料理

宮崎”歳とり膳”
コロナ禍で、売上も単価も上がったおせち料理セットが、今年も売れているようです。おせちは、作るものから買うものに変わった感があります。私の周囲でも、早くからおせち料理の予約をすることが常識化している印象があります。まったく理解しがたく、信じがたい話です。かつて、セットで販売されるおせち料理と言えば、年末年始に多忙を極める人、あるいは単身世帯向けであり、多少なりとも正月気分を味わうといった程度のものでした。いわば、わびしいものだったわけです。それが、いまや多くの家庭が、豪華なおせちを購入しているわけです。数年前、百貨店で聞いた話ですが、売れ筋は3万円台とのことでした。

もっとも、核家族化の進展とともに、おせちは全て手作りという時代はとうの昔に終わっていました。おせちは、品数が多く、一から作るのには相当の手間がかかります。食べる人も、作る人も、ある程度の人数がいることが前提の料理と言えます。おせち料理の単品販売は、いつの頃からか一般化していました。しかし、それはあくまでも家庭で作るおせちの一部を補完するものであり、おせちの全てではありませんでした。というのも、おせち料理には、各地域の特性や家族の伝統が詰まっているものだったからです。おせちに対して、年越し料理、つまり大晦日に食べる料理に関しては、地域の特性というよりも、各家庭によってそれぞれといった印象があります。

ただ、年越し蕎麦だけは、全国的に食べられているようです。その起源は、博多の承天寺発祥説、商家の三十日蕎麦起源説等、諸説あるようですが、少なくとも江戸期には一般化していたようです。蕎麦切りは細長いことから長寿を願う縁起ものとされますが、大晦日に食べるのは、一年の厄災を断ち切るという意味があるからなのだそうです。一部、正月に食べるところもあれば、讃岐ではうどん、沖縄では沖縄そばを食べるようです。讃岐は別としても、うどん文化圏の関西以西でもうどんではなく、蕎麦切りを食べる点は興味深いと思います。年越し蕎麦以外の年越し料理の定番はあまり聞いたことがありませんが、地域によっては”歳とり膳”があります。ただ、これはもうおせち料理そのものです。

大晦日におせちを食べる地域は、それなりにあります。旧暦では、日没が新しい日の始まりとされますので、大晦日の夜におせちを食べることは理にかなっているわけです。では、皆、大晦日に何を食べているのかというと、寿司、すき焼き、カニ、マグロ、鍋といったところでしょうか。一年の労をねぎらい、新しい年を迎えるという意味で、多少豪華な食事になっているわけです。年末恒例のアメ横の売出でも、おせち用食材の他に、カニやマグロが人気です。各家庭の定番があるということなのでしょう。伝統を重んじたり、縁起をかつぐことが多い日本で、年越し料理が家庭毎にバラバラというのも面白いと思います。恐らく、おせち料理こそ最重要であり、年越し料理などといった概念すら無かったのでしょう。

大昔、スペインのコスタ・デル・ソルで年越しを迎えたことがあります。トレモリノスのホテルの大宴会場で、地元の人たちが年越しパーティをやっていました。ちょっと覗いたら、入れ、入れと言われ、言葉も通じないのに、宴会に参加させてもらいました。たくさんの料理とワインの樽が並び、長老からは高そうな葉巻までもらいました。印象的だったのは、真夜中になると、”蛍の光”が流れ、それぞれ12個のぶどうを食べます。そして、前の人の肩に手をおいて列を作って踊ります。ジェンカによく似た踊りでした。これが延々と続くわけです。日本の”ゆく年くる年”的なおごそかな世界とは大違いで驚いたものです。(写真出典:maff.go.jp)

マクア渓谷