2023年12月28日木曜日

トンイル(統一)

統一旗
韓国政府機関が、定期的に行っている意識調査において、今般、南北統一が必要、ある程度必要とする回答が、64%と過去最低を更新したというニュースがありました。しかも若い世代では、大多数が統一を望んでいないとされます。韓国では、同種の調査が頻繁に行われているようですが、いずれも結果は同じ傾向を示しているようです。東西冷戦のあおりを受けて、南北が分断されてから、80年が経とうとしています。同じ民族同士が戦い多大な犠牲を出した朝鮮戦争ですが、停戦状態に入ってからも既に70年が経過しました。その間に、ヴェトナム、ドイツは分断を解消し、朝鮮半島だけが残りました。ここまで、異なる政治体制のなかで他国としての歴史を積み重ねると、統一が現実味を失っていくことは理解できます。 

同じ民族で、同じ言葉を話し、80年前までは一つの国としての歴史を共有していたわけですから、統一は民族の悲願として当然です。南の資本力と技術、北の資源や人材を組み合わせれば、一層の繁栄が見込まれることも理解します。ただ、いかに統一するのか、その姿が全く見えません。文在寅前韓国大統領は、統一に向けて様々な動きをしていましたが、具体的な統一への道筋を示したことは一度もありません。ヴェトナムは、北の共産政権が、南の民主政権とそれを支援する米国を武力制圧することで統一を成し遂げました。戦争による勝ち負けは、最も分かりやすい統一への道ではあります。しかし、現在の朝鮮半島で、雌雄を決するような戦争が起こるとは思えません。

北が核を保有していることも影響としては大きいと思いますが、ひとたび半島で銃声が轟けば、それは米国と中国の対決へと直結します。さすがに、それは両国にとってリスクが大きすぎます。また、ドイツ統一の場合、ソヴィエトが経済的に行き詰まり、東欧各国で広がった反共産主義革命が引き金となり、ベルリンの壁が崩壊しました。北の後ろ盾である中国とロシアが消滅する、あるいは簡単に体制が変わるとは思えません。金王朝と運命をともにする貴族だけが住む平壌で革命が起きることなど考えにくく、地方で暴動が起きたとしても、即刻分断、鎮圧されます。軍事クーデターによって、金王朝が転覆される可能性はあります。ただ、金王朝は、飴と鞭でしっかり軍を掌握しており、また、クーデターが成功したとしても後継政権が民主的とは限りません。

恐怖をもって国民を押さえつけている金王朝が存在する限り、国民投票や政府間交渉といった民主的な手法による統一はあり得ません。経済からはじめて、徐々に交流を拡大し、北の解放につなぐという手法もありますが、それこそ金王朝が最も警戒するところだと思います。かつて行われた特区方式が経済交流の限界だと思います。また、国外からの暴力的手段によって金一族を排除、あるいは分断できたとしても、クーデター同様、平壌の貴族たちが取って替わるだけという可能性があります。もし仮に、統一できるとすれば、統一朝鮮は大いに潤う可能性があります。ただ、GDP格差が1:40とも言われる状況では、統一コストはべらぼうな額となります。韓国経済は停滞し、南北守旧派による暴動も起こって世情は悪化し、資本や人材の国外流出も避けられません。

総じて言えば、金王朝がその存続を政治目的とする限り、そして中国が現状維持を望む限り、統一は困難と考えます。隣り合う異なる国家として、友好的な関係を保つことが、”統一”なるもののゴールかも知れません。これが、韓国の若い世代が肌で感じる現実でもあるのでしょう。奇跡的な経済成長を遂げた韓国の若い世代にとって、もはや統一は悲願ですらないのかも知れません。北に核を放棄させ、安定的な関係を構築するためには、南北の体制を維持したまま、北の資源を南が活かして双方の経済発展につなげることが、残された現実的選択のように思えます。それこそが、まさに悲劇だと言わざるを得ないのですが・・・。(写真出典:jp.yna.co.kr)

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