イスラエルのねらいは、ガザ回廊の実効支配だと思われます。いまや国家として多くの国が承認するパレスティナですが、主な領土であるヨルダン川西岸において、パレスティナ政府が実権を握っているのは、国土のわずか20%弱にすぎません。その他は、イスラエルによる実効支配が続いています。イスラエルにとって、ガザ制圧に関する唯一最大の懸念は、国際的批判です。常にイスラエルを支持してきたアメリカが、その防波堤となることは明白ですが、とりわけ大統領選挙目前の今、民主党も共和党も、一層強くイスラエルを支持するしかない状況にあります。また、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、国際社会からの過度な介入も考えにくい状況にあります。これもイスラエルにとっては好材料と言えます。
パレスティナ問題の起源を語ったり、大英帝国の二枚舌を糾弾することは、非生産的だと思います。パレスティナ問題への現実的な対応は、二国共存しかないと思います。妥協は不満しか生まないと言われますが、もはや妥協以外の道はないように思います。ただ、新たに国境線を議論することは非現実的です。中東戦争でイスラエルが実効支配地域を広げる以前の国連決議181号(1947)、いわゆる”パレスティナ分割決議”に戻るべきかと思います。181号決議は、アラブ10カ国が反対、英国が棄権、他国は一度は賛成した案であり、今も有効です。パレスティナを含むアラブ各国には妥協してもらう必要があります。一方、イスラエルには違法な入植地等をあきらめてもらう必要があります。
181号議決を基本としつつも、現実的な調整はあり得ると思います。例えば、パレスティナは、ガザを含む南部を放棄し、ヨルダン川西岸、およびハイファ・ナザレを除く北部を領地とする。これでパレスティナの飛地は解消されます。イスラエルは、パレスティナをシリア・レバノンとの緩衝帯として確保できるので、ゴラン高原から撤退すべきでしょう。560万人と言われるパレスティナ難民の一部は、帰国することになると思われます。国際社会はその帰還を財政的に支援するべきだと思います。エルサレムは、181号議決の趣旨に従い、国連信託統治とするのが現実的だと思います。新しい国境やエルサレムの治安維持には、当面、国連軍があたる必要があるでしょう。もちろん、こんな素人案など実現困難であることは百も承知ですが、言ってみたくなるほど、パレスティナの状況は出口が見えません。
181号が決議される際、シオニストたちは、賛成票を集めるため、臆面もなく買収工作を行いました。パレスティナ問題の原因を作ったのは英国の二枚舌ですが、シオニストの横暴を許してきたのは米国です。いずれもユダヤ人の経済力が背景にあります。加えて、米国では、人口の22%を占め、影響力を増大させてきたキリスト教福音派の票が政治を左右すると言われます。福音派は、その名のとおり、聖書を絶対視する原理主義者です。福音派は、旧約聖書のなかで神がユダヤ人に与えた”約束の地”を絶対だとし、イスラエルを支持します。聖書は”隣人を愛しなさい”とも言っています。福音派にとって、この言葉も絶対的なのでしょう。とすれば、パレスティナ人は隣人ではなく、約束の地を侵す異教徒という理解なのでしょう。一神教は、ユダヤ人の発明です。人々は一神教に救いを求めてきましたが、同時に、世界は一神教に翻弄されてきたとも言えそうです。(写真出典:wsj.com)