2023年12月18日月曜日

菓子パン

木村屋のあんパン
東日本大震災の1週間後、山形のタクシーをチャーターし、三陸を回りました。LPGで動くタクシーを使ったのは、不足していた現地のガソリンを使わないためでした。いつ、どこで食事できるかも不確かな状況のなか、タクシーの運転手さんは、自分の食事用に菓子パンを積んできていました。3日目、昼食のあてもないまま海岸沿いを走っていると、運転手さんが、皆でパンを食べましょう、と自分用の食料を分けてくれました。実は、私は菓子パンが苦手なのですが、そんなことを言っている場合でもなく、ありがたく頂戴しました。釜石にたどり着き、従業員の皆さんに「何か食べたいものはあるか?」と聞いたところ、菓子パンと言うのです。早く言ってよ、私の分をあげたのに、と思った次第です。

菓子パンは日本で生まれました。三大菓子パンは、あんパン、ジャムパン、クリームパンなのだそうです。菓子パンの嚆矢でもあるあんパンは、1874年に木村屋が発売しています。同じ木村屋が1900年に発売したのがジャムパン、1904年には中村屋がクリームパンを発売しています。この三大菓子パンが、日本にパンの文化を定着させたとも言われます。他にもブームにまでなった大人気のメロン・パンがありますし、渦巻きパンにチョコ等を詰めたコロネ等もあります。いずれも苦手です。あんこやジャムといったフィリングが嫌いなのではありません。菓子パンの生地が苦手なのです。あのパサパサ、モサモサとした食感がいけません。

本来、パンの生地には、乳製品はほとんど使われませんが、菓子パンの生地には、バターや砂糖の他に、ミルクや卵が練り込まれています。菓子パンに類するペイストリーの生地にはミルクも卵も使いません。クロワッサンやブリオッシュといったヴィエノワズリーと菓子パンを比べれば、使うバターの量が大いに違うと思います。菓子パンと同じく日本発祥のソフトフランスパンの生地には、卵もミルクも使いません。ちなみに、ソフトフランスパン系は好みです。例えば、ソフトフランパンの生地を使う塩パンにあんこを入れたものなどは大好きです。発酵や焼き方の関係もあるかも知れませんが、いずれにしても菓子パンの生地には、なんとも言えない中途半端な印象がつきまといます。

私が、菓子パンの生地を苦手とするのは、学校給食のコッペパンから受けたトラウマが関係しているかも知れません。学校給食は、完食が絶対的条件でした。私も、先生に詰められ、嫌いだった人参を泣きながら食べさせられたことを覚えています。ただ、コッペパンは、食べ残してもランドセルに隠すことができました。私のランドセルには、いつも食べ残しのコッペパンが数本、カピカピの状態で入っていました。ランドセルを開けると、パンの匂いが充満していたものです。唯一、コッペパンを完食する場合があり、おかずとしてソース焼きそばが出た時です。コッペパンの中側を急いでほじって食べ、そこに焼きそばを入れて食べるわけです。コッペパン独特の無味乾燥感は気にならなくなります。

10年ほど前からでしょうか、TV等で各地のご当地パンが紹介される機会が増えました。日本のパン市場では、山崎製パンが圧倒的に強く、その売上は2位のフジパンの4倍近くあります。全国のスーパー・マーケットのパン売り場は、大半、山崎パンによって占められているということになります。山崎パンの寡占状態がゆえに、昔から親しまれ、生き残ってきたご当地パンが、注目を集めることになったのでしょう。数年前、デパートでご当地パン特集があり、有名どころをいくつか試してみたことがあります。菓子パン系のご当地パンは、やはり苦手でした。惣菜パン系は、幾分マシなのですが、それでも、また食べたいと思うようなものはありませんでした。ご当地パンの人気の源泉は、味の良さというよりも、慣れ親しんだ懐かしい味ということなのではないでしょうか。(写真出典:kimuraya-sohonten.co.jp)

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