近年、運動靴は、クッション性の高い厚底、アーチ・サポートと呼ばれる土踏まず部分を高くした立体的なインソールが主流です。足底のフィット感が高く履き心地が良いこと、足底にかかる衝撃を分散させることで疲れにくいといった効用もあるのでしょう。ただ、特定の運動には適しているのかもしれませんが、果たして普段使いの靴、あるいは散歩用の靴としてはどうなのか、という疑問があります。欧州のゴツゴツとした石畳が多い町では意味があるかもしれませんが、日本のような真っ平らな路面が多い町での必要性はあまり感じません。厚くて立体的なインソールは、材質や製造技術の進化の賜物なのでしょう。一方、人類は、随分と長いこと、平らなインソールの靴を履いてきましたが、それは単に技術の問題だったのでしょうか。
日本の場合、旅をする際、平安時代から底が平らな草鞋を履いてきました。草鞋は、軽い、通気性が良い、ある程度のクッション性がある、コストが安い、使い捨てといった特性があります。ただ、日に40kmも歩くには疲れにくいという条件が必要だったと思われます。創意工夫に優れた日本人が、千年近くも草鞋を履き続けてきたということは、疲れに対しても効果があったからだと思えます。草鞋は、足指が鼻緒を挟むことで鍛えられ、地面を踏ん張る力が増し、土踏まずの形成にも有効だと聞きます。インソールが平面的で柔軟性があることに関しては、素足で地面を掴むに等しいことから、足裏が鍛えられ、土踏まずの形成にも効果があるものと思われます。さらには、体重分散効果も大きいと思われます。
全体重を、足裏全体で受け止めることによって分散させ、疲れにくくする効果があるのではないでしょうか。立体的なインソールは、衝撃には強くとも、体重を分散させる効果は薄いように思われます。加えて姿勢の問題があります。カンペールのビートルを履いて感じたことは、立体的インソールに比べて、体の重心がやや後退することです。実は、後退するのではなく、直立したのだと思います。立体的インソールは、運動時に有効な前傾姿勢を生み出す仕組みでもあるのでしょう。人間の体は、直立を前提に構成されています。ということは、直立した状態に近いほど疲れにくいのではないでしょうか。また、膝への負荷を考えれば、クッション性の高いインソールの方がいいとは思いますが、それは立体性の問題ではありません。
ちなみに、縄文時代の土器には、モカシンのような靴をかたどったものがあるそうです。恐らく北方文化の影響なのでしょう。以降も、狩りや戦いの際、あるいは雪の中では靴が使われています。ただ、普段使いは草履(ぞうり)や下駄、旅の際には草鞋が主流となるわけです。草鞋は、飛鳥から奈良時代の頃、中国から伝来し、平安期には一般化していたようです。草履は、平安期に草鞋を改良して作られたようです。草鞋の足首を縛る紐を取り除き、着脱がしやすくなっています。家で靴を脱ぐ日本の文化に適合させたわけです。草履の一種である雪踏(せった)は、竹皮の草履の底に皮を貼り、踵部分に金属を付けて防水機能を持たせたものです。いずれにしても、草鞋や草履は健康に良く、かつ疲れにくいとは思うのですが、どうにも鼻緒は苦手です。サンダルも鼻緒のあるものはいけません。当面は、カンペールのビートルでがんばろうかと思います。(写真:カンペール”ビートル” 出典:camper.com)