監督:サラ・ポーリー 2022年アメリカ
☆☆☆☆ー
(ネタバレ注意)
サラ・ポーリーは、俳優として知られていますが、監督としても高い評価を得ているようです。本作は、10年振りとなる監督作品です。原作は、メノナイトの両親の元で育ったミリアム・トウズが、2018年に発表した小説です。実際にボリビアのメノナイト・コミュニティで起きた事件にインスパイアされいます。プロデューサーには、フランシス・マクドーマンドが入り、出演もしています。彼女がからんだ映画は、アカデミー賞はじめ多くの賞を獲得する傾向があります。今回も、アカデミー最優秀作品賞にノミネートされ、サラ・ポーリーがアカデミー脚色賞を受賞しました。舞台となるのは、古いドイツ語を話し、伝統的な信仰と質素な生活を維持するメノナイト保守派のコミュティです。メノナイトは、非暴力アナバプテスト(再洗礼)派の指導者メノ・シモンズに由来します。16世紀に起こった宗教改革のなかで急進派とされた宗派です。聖書の解釈を巡る意見の相違から、多くの分派が生まれますが、カトリックからも、プロテスタントからも異端と見なされ、迫害を受けるグループも多くありました。例えば、アーミッシュも、その一つです。メノナイトの一部は、迫害を逃れ、新大陸へと渡ります。その後も分派を繰り返しますが、保守派の一部は、アーミッシュと同様、文明を拒否した信仰の生活を送っています。
コミュニティの一部の男たちが、深夜、幼児も含む就寝中の女性たちに、動物用の麻酔薬を噴霧したうえでレイプを繰り返すという事件が起きます。男たちは逮捕され、町の留置所に拘束されます。コミュニティの男たちは、保釈を求めて、町へ出かけます。その間に、女たちは、この問題にいかに対処すべきか協議します。何もしない、男たちと戦う、皆でコミュニティを離れるという3つの選択肢が議論されます。何もしなければ変化は起きないということで意見は一致します。そして、子供たちを守る為に戦うべきという声もありましたが、赦しを与えなければ天国にはいけないという教義を踏まえ、女たちはコミュニティを去るという結論に達します。
コミュニティのなかでは、教育も受けず、意見を言うことも禁じられていた女たちが、初めて言葉を発し、考え、行動したわけです。まさにタイトルどおりですが、女性の差別的な状況を見事に象徴した寓話だと思います。男女差別の根源は、農耕とともに定着していった家父長制にあると思います。ラディカルなフェミニストたちは、家父長制を激しく攻撃しています。成果がないとは言いませんが、いまだ大きな社会的変化は起こっていません。その大きな要因は、あまりにも浸透した家父長制に代る社会的制な仕組みが見えてこないからなのでしょう。本作における女たちの決断は、男たちにも考えさせなければ変化は起きない、という一つの選択肢のように思えます。
映画は、おおむね納屋という限られた場所で進行します。しかも特定の主演者がいないアンサンブル・キャスト・スタイルです。俳優たちは、一人ひとり、高い演技力が求められます。また、場所が限られることによる単調さを克服する必要もあります。本作では、キャストも見事な演技で存在感を示し、かつ効果的に挿入される美しい音楽や畑で遊ぶ子供たちの映像によって単調さを感じさせません。さらに、映像全体のトーンや衣装の色を抑え気味にすることで、緊張感を持続させる工夫もされています。実によく構成された脚本と演出だと思います。それにしても、フランシス・マクドーマンドは、わずかな登場シーンにも関わらず、圧倒的な存在感を示しています。(写真出典:womentalking-movie.jp)