2023年9月3日日曜日

横審稽古総見

横綱審議委員会、いわゆる横審は、1950年、日本相撲協会によって設置された諮問機関です。その年の初場所で3横綱が揃って途中休場し、前年秋には、前田山が不祥事で横綱をクビになっていました。横綱の不祥事や休場は、相撲協会による横綱の粗製濫造によるものとの批判がまき起こり、横審が設置されることになりました。かつては、相撲宗家とされる吉田司家が横綱免許を与えていました。江戸期から続く古い慣習です。現在、横綱昇進は、相撲協会審判部の推薦を受けた理事会が、横審に諮問したうえで決定しています。理事会は、横審の答申を尊重するという規定になっているため、事実上、横審が横綱昇進を決めていると言ってもいいのでしょう。

横審の主な役割は、横綱推薦ということになります。ただ、他にも、横綱の休場、成績、品格、取組内容等によっては、拘束力はないものの、激励・注意・引退勧告等を決議することもあります。横審の定例会議は、本場所の千秋楽翌日に開催されますが、国技館開催の本場所の直前には、関取以上を集めて、稽古総見が行われます。稽古総見は、一般公開もされます。一時期、全ての稽古総見が公開されていましたが、今は年一回、5月の夏場所前に公開されます。ただ、コロナ禍で中断を余儀なくされていました。今年、ようやく再開され、9月の秋場所直前で一般公開されました。稽古総見の一般公開は、入場無料、席は自由ということで大人気です。7時半開場のかなり前から長蛇の列ができます。

私は、6時半くらいから列に並びますが、その時点で、既に千人くらいが並んでいます。開場時点では、それが3千人程度に膨れ上がり、皆、土俵に近いマス席へと殺到します。ここで注意すべき点があります。実戦形式で行われる“申し合い”では、勝った力士が次の相手を指名します。指名してほしい力士たちは、土俵を囲んで手を上げ、次第に土俵の上まであがり、勝った力士に迫っていきます。次の相手が決まったら、他の力士は土俵下で蹲踞して待つのがマナーですが、熱が入ってくると、皆、土俵から降りなくなります。すると観客からは取り組みが見えにくくなるわけです。ただ、横審が陣取る正面だけは、力士も空けます。つまり、土俵への近さではなく、いかに正面の席をとるかがポイントになるわけです。

参加する力士の数が多いので、相撲部屋での稽古と同じとはいきません。稽古は、番付下位の力士たちからはじめ、上位者へと進んでいきます。内容としては、部屋と同じく、申し合いとぶつかり稽古が行われます。白鵬が横綱だった頃には、注目力士を白鵬がかわいがる場面もありました。角界で言う”かわいがり”は、上位者が目をかけている下位者に、あえて厳しい稽古をつけることです。かわいがられる力士は、でかい図体ながらヒイヒイと声をあげ、しごきに耐えて、向かっていきます。部屋では、それがもっと厳しく行われているのでしょう。素人目には、いじめと区別がつきにくい稽古です。稽古の仕上がりを見てもらう総見ですが、いつもどおりの稽古を見てもうことも大事なのかもしれません。

さて、4年振りとなった今年の稽古総見一般公開ですが、朝から猛暑が予想され、開場前の列に並ぶことは断念しました。稽古開始後に入場しても、土俵から離れた席であれば、十分に余裕はあります。結果的には、並ばずに入って、2階席のいいところに陣取ることができました。横綱、3大関はじめ、上位陣は、揃って参加していました。秋場所も熱戦が期待できそうです。今回は、稽古総見にあわせて、八角理事長、元横綱北勝海の還暦土俵入りも行われました。定番の赤い綱をしめ、雲竜型の土俵入りを披露していました。還暦土俵入りは、元横綱の長寿を祝って行われますが、八角親方で12人目とのこと。横綱の人数からすれば少なすぎます。かつては、横綱に限らず、還暦前に亡くなる力士が多く、近年では体調の問題から辞退するケースも多いようです。(写真出典:4travel.jp)

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