2023年9月16日土曜日

宇宙中継

1963年11月23日、朝5時28分、世界初となる衛星中継が日米間で行われました。アメリカは、既に人工衛星を介したTV中継技術を開発していました。翌年に東京オリンピックを控えた日本は、急ぎこの技術のキャッチ・アップに努め、世界初の衛星放送にこぎつけます。当時は、宇宙中継と呼ばれていました。我が家も含め、日本中が早起きをして、この歴史的瞬間に臨んだものです。放送では、ジョン・F・ケネディ大統領がメッセージを送る予定でした。ところが、「アメリカ合衆国からの特別のプログラムを送ります」という手書きのボードに続いて「この電波に乗せて、誠に悲しむべきニュースをお届けしなければなりません」というアナウンスがあり、現地時間22日12時30分、ケネディ大統領が暗殺されたことを伝えます。

若くして大統領に就任したケネディは、当時、日本でも人気があり、よく知られていました。小学生など、よく分かりもしないのに、”尊敬する人は”と聞かれるとケネディ大統領と答えていたものです。それだけに、ニュースの衝撃は大きなものでした。初めて衛星を通じて流されたTVニュースが、アポロ計画はじめ宇宙開発を積極的に推進したケネディ大統領の死だったという実に悲劇的な幕開けになったわけです。ただ、ダラスでの事件発生からわずか3時間後に、日本の各家庭がTVでそのニュースを知るということは、実に画期的だったと言えます。あらためてTVの速報性が認識されたとも言えます。なお、2日後、容疑者リー・ハーヴェイ・オズワルドが、ダラス警察の地下駐車場で、ジャック・ルビーによって銃撃される瞬間も全米にTV中継されていました。

1967年6月27日早朝には、世界初となる多元衛星中継番組「Our World」が、14カ国を結んで放送されます。再び、日本中が早起きして、TVの前に集まります。私が覚えているのは、ビートルズのEMIスタジオでの録音風景、そしてフランコ・ゼフェレッリ監督の映画「ロミオとジュリエット」のヴァチカンでの撮影風景です。ビートルズは、この放送のために書き下ろした「All You Need Is Love」を演奏します。この曲は、放送の翌月にはリリースされ世界的な大ヒットとなります。世界初の衛星を使った新曲キャンペーンと言えそうです。1968年に公開された「ロミオとジュリエット」は、ニーノ・ロータの音楽とともに世界的な大ヒットを記録しています。他にも、世界的著名人が多く出演し、世界的なお祭り状態でした。

20世紀は発明の時代でした。技術革新は、明るい未来であり、人を幸せにする人類の進歩として大歓迎された時代でした。同時に、技術革新は、ビジネス、世界経済を拡大する20世紀のエンジンでもあり続けました。2000年、さる会の新年会で挨拶にたった牧野昇氏は「これからしばらくの間、大きな技術革新は望めない。ビジネスは、当面、マーケティングでがんばるしかない」と語っていました。マーケティングは、ソフトと理解すべきかも知れません。技術革新に頼ってきた経済拡大、特に日本の産業界は、21世紀を迎え、大きな岐路に立たされたわけです。技術革新が停滞するだけでなく、フロン・ガスのように技術革新の悪影響が顕在化し、大きなつけが回ってきた面もあります。

一般的に、世界三大発明と言えば、火薬・羅針盤・活版印刷を指します。20世紀の三大発明は何か、という話もあります。ただ、立場や見方によって諸説あり、定説には至っていません。人工衛星を、その一つとする説もあるようですが、多く見かけるのは、半導体・コンピューター・レーザーという説です。核融合、トランジスタ、DNA、あるいはプラスチック、コンテナを入れるべきという意見もあります。ちなみに、アインシュタインが人類最大の発明としたのは「複利」だったと言われます。これは、金融機関のセミナーなどで都合良く使われている定番の話です。事実なのでしょうが、どのような思いで言った言葉のか、よく分かりません。私には、明晰なアインシュタインが、金融の恐ろしさを皮肉った発言のように思えてなりません。20世紀は強欲の世紀です。強欲が技術革新を生み、技術革新が更なる強欲を生みました。(写真出典:time-space.kddi.com)

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