ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
監督:クリストファー・マッカリー 2023年アメリカ
☆☆☆+
TVシリーズ「スパイ大作戦」を夢中で観ていたのは、もう半世紀も前のことになります。毎回、よくできたプロットを楽しみ、ラロ・シフリンのテーマ曲にワクワクしたものです。また、指示を伝えるテープの「おはよう!フェルプス君」は流行語にもなりました。1996年、それを映画化したのはトム・クルーズでした。プロデューサーとしての処女作品です。以来、シリーズ全7作は、すべて大ヒットし、来年、本作のPAT TOWの公開も決まっています。ただ、ブライアン・デ・パルマが監督した第1作以降の数作は、トム・クルーズの派手なアクションにも関わらず、やや退屈な映画でした。それが、5作目「ローグネイション」から一段とギアが上がり、俄然、面白い映画になりました。
ローグネイション以降の監督は、クリストファー・マッカリーが務めています。つまり、トム・クルーズとマッカリー監督のコンビが、ミッション:インポッシブル・シリーズの完成度を高めたわけです。トム・クルーズは、ノー・スタントでアクション・シーンをこなすことで知られますが、単なる俳優ではなく、アクションの本質をよく心得、かつ多くのアイデアを持っている映画人だと思われます。ただ、いかにアクション・シーンがよく出来ていたとしても、器としての映画がしっかりしていなければ、印象には残りません。トム・クルーズにとって、彼のアイデアを本物の映画に仕立てあげる才能を持ったクリストファー・マッカリーを発見したことは、とてもラッキーなことだったと言えるのでしょう。
マッカリー監督は、脚本家として知られていた人です。脚本家としては、なんといっても1995年の歴史的傑作「ユージュアル・サスペクツ」を挙げなければなりません。アカデミー脚本賞も獲得しています。2000年には監督にも挑戦しますが、結果はイマイチ。ところが、2012年、トム・クルーズがプロデュースする「アウトロー」(2012)を監督し大ヒットさせます。アウトローの原作は、リー・チャイルドの「ジャック・リーチャー・シリーズ」です。原作のリーチャーは身長2m、枯れた風情の大男です。個人的には、クリント・イーストウッドが適役と思っていました。小柄なトム・クルーズで大丈夫か、と心配しましたが、結果として、二人の才能が、身長差をものともせず、新たなリーチャーを作り出していました。
本作の主なアクション・シーンは、アブダビ空港での追かけっこ、ローマでのカー・チェイス、ヴェネチアのパーティでの乱闘、オリエント急行でのマクガフィン争奪戦、といったところです。決して目新しい設定はありません。ところが、想像をはるかに超えるアクションが展開されます。ツボを心得たトム・クルーズの職人ぶりに感心させられました。さらに、クリストファー・マッカリーの脚本が、映画にしっかりとした背骨を通しています。また、お馴染みのキャラクターやキャストも安定感を増しているように思います。なかでも、ヴァネッサ・カービーの存在感が際立ちます。1作目でヴァネッサ・レッドグレーブが演じた武器商人の娘を演じています。この人の個性的な顔立ちは、画面に出るだけで強烈な印象を与え、映画を映画らしくしてくれます。
最近のアクション映画の特徴は、スピード感、過激さ、そして上映時間の長さだと思います。スピードと過激さは、ゲームの影響も大きいわけですが、エスカレートするというベクトルしかありません。長尺になっている理由は、似たようなシチュエーションのなかでアクションの斬新さを競うために、結果、長くなっているということだと思います。いずれにしても、それらを実現させているのは、CG、モーション・ピクチャー等の最新技術です。近年、話題の生成AIは、映像の世界でも存在感を増しているようです。近い将来、映画は、俳優もセットも不要となり、少ないスタッフがパソコンで作ることになるのかもしれません。いや、スタッフすら不要かもしれません。しかし、そこで新鮮な感動や衝撃が生まれるとは到底思えませんが・・・。(写真出典:eiga.com)