2023年8月30日水曜日

ベーコン・マニア

ここ10~15年、アメリカで起きたベーコン・マニアのブームには、やや異常な印象を受けました。もともとアメリカ人はベーコン好きです。1980~90年代、炭水化物の摂取を抑え、タンパク質と脂肪の摂取を増やすアトキンス・ダイエットがブームになると、にわかにベーコンが注目を集めたことがあるようです。しかし、今回のブームは、実利を伴わず、SNSが巻き起こした馬鹿騒ぎといった風情があります。ダイエットや健康食品ブームの反動でもあるのでしょうが、どこか愛国主義と結びついている印象もあり、気になるところでした。単なるイメージですが、ブームを支えているのは、田舎の白人貧困層のように思えてなりませんでした。その後、トランプ旋風を起こした人たちです。

ベーコン・マニアに言わせると、ベーコンはアメリカ独自の国民食であり、べーコンこそアメリカだ、ということになります。ベーコンは、アメリカの国民食かも知れませんが、アメリカに限った食品ではありません。古代中国に始まったという豚の塩漬けは、冷蔵技術が限られていた時代、世界各国で作られ、食されました。思うに、冷蔵・冷凍技術が進化した今、塩漬けにする必要性はなくなったわけで、ベーコンは絶滅しても不思議はありません。ただ、その独特な風味が人々を魅了し続けているわけです。必要性や合理性に欠ける存在は、時として人々の深い愛情の対象となります。各国に残るベーコンですが、アメリカ人が、アメリカのベーコンをユニークだと主張する理由も、まったくないわけではありません。

例えば、欧州の多くの国では、ベーコンといえば主に豚の背中の肉を使って作ります。そもそもベーコンという言葉もバック(背中)と同じ語源とされます。ところが、アメリカでは、主にサイドバック(豚バラ肉)を使って、細長いベーコンを作ります。アメリカでベーコンと言えば、どこでも、このサイドバック・ベーコン、ほぼ一択です。サイドバック・ベーコンに限って言えば、確かにアメリカ独自の食品と言えるのかも知れません。日本のベーコンも同じくアメリカ式です。ただ、日本の場合、よくスーパーで売られているパックされたベーコンは、加熱処理し、半分に切ったものです。また、カナディアン・ベーコンと呼ばれるものは、主に背中の肉を使った脂身の少ないバック・ベーコンです。

アメリカ人は、カリカリに焼いたベーコンが大好きです。ベーコンはこうでなくちゃ、というわけです。加熱済のベーコンを軽く焼いて食べる日本人には、かなり違和感があります。そもそも、アメリカでサイドバック・ベーコンが主流となったのは、安価であり、移民たちも手に入れやすかったからだと思われます。そのサイドバック・ベーコンは生の状態で販売されてるので、よく火を通す必要があります。脂身の多いサイドバック・ベーコンをよく焼けば、流れ出た脂で、おのずとカリカリになるわけです。つまり、焼き加減の好み以前に、アメリカのベーコンは、カリカリにするしかなかったのだと思います。それが、時とともに、アメリカの味として定着していったわけです。

サイドバック・ベーコンが健康的な食べ物ではないことは容易に理解できます。脂身、塩味、高カロリー、防腐剤等の添加物、と健康に良くないもののかたまりです。ただ、その風味の良さは、棄てがたいものがあり、私もよく食べます。私の場合、朝食時に、ベーコン・エッグとして食べることが多いのですが、量は多くならないように気を使っています。ほとんどの場合、スーパーで買うパックのハーフ・ベーコンを食べていますが、たまにまともなベーコンを食べたくなります。例えば、御殿場ハムのしっかりと燻製されたベーコンなどは、確実に人を幸せにする食べ物の一つだと思っています。アメリカのベーコン・マニアは異常だと申しあげましたが、実は、決して他人だとも思っていません。(写真出典:ei-sta.com)

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