プディングは、大雑把に言えば、卵や牛乳等を蒸した料理の総称であり、英国発祥とされます。カスタード・プディングは、その一種のスウィーツということになります。カスタード・プディングは、実に裾野の広いスウィーツです。卵・牛乳・砂糖を基本材料とする点は同じですが、製法の違い、あるいは国の違いによって、ババロア、ブラマンジェ、パンナ・コッタ、クリーム・ブリュレ、フラン、クレマ・カタラーナ等々があります。また、ティラミスやカヌレも仲間だと言えます。スペインの家庭料理ミルク・フライは好物ですが、これも同族なのだと思います。私は、総じてカスタード・プディングが大好きです。間違いなく、人を幸せにする食べ物の一つだと思います。
日本で一般的に販売されているメーカー製のプリンもおいしいとは思います。いわゆるケミカル・プリンですが、熱を加えず、ゼラチン等で固めたものです。とてもなめらかな口当たりになりますが、カスタード・プディングというよりも、ほぼババロアだと思って食べています。ちなみに、グリコのヒット商品「プッチンプリン」は、世界でもっとも売れたプリンとしてギネス世界記録に認定されているようです。さて、そのカスタード・プディング系のなかでのお気に入りと言えば、二つあります。一つは、お袋が作ってくれたプリンです。永いこと食べていたからということなのでしょうが、伝統的な作り方が生む食感が好きでした。今一つは、フランス菓子のファーブルトンです。
ファーブルトンは、ブルターニュ地方で生まれたスウィーツです。”ファー”は牛乳で煮た粥を意味し、”ブルトン”はブルターニュ地方を指します。卵、牛乳、砂糖に小麦粉を混ぜ、プルーンを入れて、オーブンで焼き上げます。しっかりとした質感、プルルとした食感がたまりません。私が、初めてファーブルトンを食べたのは、神戸の「PATISSERIE TOOTH TOOTH」です。洋菓子店としては、1997年に、トアロードと三宮中央通の角、生田神社一の鳥居横に創業しています。神戸と西宮だけに5店舗を展開しています。初めて食べたファーブルトンは、まさに至福の味、即刻、最も好きな食べ物の一つに認定しました。ただ、日持ちしないという難点があり、神戸から帰る日に、老祥記の豚まんとともに買って、新幹線に乗ったものです。
過去形で語るには理由があります。10年ほど前から、トゥース・トゥースの店先からファーブルトンが消えたのです。今でも神戸へ行くとトゥース・トゥースには立ち寄ります。焼き菓子等を買うのですが、その際、店員さんに「ファーブルトンはないんだよね」と、必ず言うことにしています。ファーブルトンを忘れていない客がいることを伝える、私なりの復活要望運動だと思っています。東京でも商っている店はいくつかあります。最近も、神保町で新しい店を見つけました。どれも美味しいのですが、トゥース・トゥースの味とは、多少異なります。トゥース・トゥースの濃厚なファーブルトンは、どこか田舎臭さの残る素朴な代物でした。恐らく、伝統的な作り方を踏襲し、ブルターニュらしさを残したファーブルトンだったのでしょう。(写真出典:prune.jp)