2023年8月12日土曜日

フェニックス

日本三大花火大会と言えば、8月末に大曲で開催される「全国花火競技大会」、11月初めの「土浦全国花火競技大会」 、そして8月初めの「長岡まつり大花火大会」となります。大曲と土浦の花火大会は、100年を超える歴史を誇り、全国の煙火師が内閣総理大臣賞を競います。対して長岡の花火は競技会ではなく、戦後の1947年、長岡空襲の慰霊と復興を願って始められました。もっとも、その起源とされる花火は、1879年に八幡神社の祭りで打ち上げられていたようです。中越地方は、もともと煙火業の盛んな土地柄です。2004年10月、その中越地方を地震が襲います。中越地震です。2005年の長岡花火では、地震復興を願って「フェニックス」が打ち上げられ、以降、正三尺玉とともに、長岡花火の象徴となりました。

フェニックスは、全長2kmに渡り、同じ花火が、同時に打ち上げられる超ワイド・スターマインです。復興の象徴として、翼を広げた不死鳥の姿がイメージされています。会場には、平山綾香の「Jupiter」が流れ、約5分間、打ち上げが続きます。大曲でも土浦でもワイド・スターマインが名物となっているようですが、その長さは500~600mと聞きますから、いかにフェニックスが桁違いかが分かります。打ち上げコストも桁違いです。一般的なスターマインが約200万円前後と聞きますが、フェニックスは2,600万円以上。毎年、全国から集めた寄付をメインに賄っているようです。ちなみに、隅田川の花火大会は5~6号玉が中心で、1玉15,000円程度。それが尺玉(10号)になると5~6万円はかかると聞きます。

正三尺玉はじめ、尺玉以上を中心に打ち上げることで有名だった長岡花火は、フェニックスの登場で、一段と名を上げたと言えます。正三尺玉は、直径が90cm、重さは300kgに及びます。一晩に2発打ち上げられますが、大きすぎて失敗することもあるようです。その打ち上げ音はすざまじく、腹の底に響きます。花火は音を楽しむという好事家たちは、花火がよく見える場所を捨て、正三尺玉の打ち上げ場所付近に陣取るようです。正三尺玉の上を行くのが、中越の片貝村の正四尺玉です。120cm、400kg超えの大玉は、球形に開くことは難しく、下側に尾を引くような姿になります。ちなみに、ギネス記録は、2020年、コロラドのスキー場で打ち上げられた157cm、1,270kgの超大玉だそうです。

高齢になった今でも、花火と聞けば、ワクワクします。ただ、実際に、花火大会の会場へ行く事はもうありません。さすがに、あの雑踏は耐えがたいものがあります。有料の観覧席を確保する手はありますが、うんざりするのは花火が終わった後の大混雑です。長岡花火は100万人を集めます。平成の大合併以前、長岡市の人口は20万人を下回っていました。観覧席はまだしも、ホテルなど絶対に確保できません。観光客は、例えば新潟市などに宿を取るしかありません。花火が終わるとJR長岡駅に向かって大行進が始まります。信濃川から駅までは1.5km程度ですが、1時間くらいかけてゆっくり進むことになります。混乱は見られないものの、やはりうんざりします。新幹線も増便されますが、新潟市まではぎゅうぎゅう詰めです。

長岡空襲は、1945年8月1日夜、125機にも及ぶB29爆撃機によって行われました。焼夷弾による絨毯爆撃は、市の8割を焼き尽くし、約1,500人の市民が亡くなっています。地方都市だった長岡が空襲されたのは、山本五十六の故郷だったから、という話があります。ただ、実際には、金属加工業が多く、兵器関連工場が多かったからなのでしょう。一方、新潟県最大の人口を抱え、鉄道網の要衝、大陸への海運拠点でもある新潟市は空襲されていません。なぜなら新潟市は原爆の投下候補地の一つとなっており、原爆の威力を正確に把握するため、事前の空襲は行われなかったようです。7月20日朝、1機のB29が長岡郊外に飛来し、1発の爆弾を投下しています。これは新潟市への原爆投下の訓練だったようです。ちなみに、7月末時点における原爆投下候補地は、広島、長崎、小倉、新潟でした。(写真出典:mainichi.jp)

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