【台湾ラーメン】
名古屋の人たちは、「味仙」の台湾ラーメンが大好きです。味仙は、台湾人を父に持つ郭明優が、今池に開いた店です。1971年、郭は、台湾の担仔麺をアレンジして、激辛の台湾ラーメンを考案します。台南名物の担仔麺は、豚挽肉、エビ、椎茸等々で作る複雑でやさしい味の麺類です。小ぶりな器で食べることも含め、飽きの来ない、酒のシメに最適な麺です。対して、台湾ラーメンは、シンプルな鶏ガラスープの麺に、台湾ミンチとも呼ばれる挽肉・ニラ・唐辛子を炒めたものを乗せます。これがびっくりするほど真っ赤で辛いわけです。十数年前、激辛ブームが起きると、台湾ラーメンも注目を集め、全国区に躍り出ました。その後、台湾まぜそばも登場し、本家台湾ラーメンを超えるほどの知名度を得ています。およそアジア系の辛い料理は、複雑なうま味をベースに辛味がいい具合に同居しているものです。意味のある辛さ、あるいは必然性の高い辛さとも言えます。対して、台湾ラーメンは、辛さだけが際立っている印象があり、あまり好みません。台湾ラーメンの人気の源は、最近人気の激辛料理と同様、辛さに対する我慢くらべ、あるいはアスリート感覚のチャレンジといった風情なのではないかと思っています。辛さ自体は、単なる刺激なので、味とは無関係です。辛い料理にはまると、どんどん刺激をエスカレートさせていくという傾向があります。一定レベル以上の辛さは、痛みに変わりますが、台湾ラーメンの辛さは、その直前くらいだと思います。ちなみに、味仙の他の料理は、総じて美味しいと思っています。(写真出典:ja.wikipedia.org)
【小倉トースト】
小倉トーストは、トーストした食パンにバターかマーガリンを塗り、その上に小倉あんを乗せたものです。美味いに決まっています。ジャムがあんこに替わっただけですから、実に理に適っているとも言えます。かつて栄にあった「満つ葉」という喫茶店が、1921年に考案したメニューとされます。ある日、学生客が、バタートーストをぜんざいに浸して食べているのを見た店主が考案したと言います。モーニングで知られる名古屋の喫茶店文化のなかで育ってきたメニューということなのでしょう。喫茶店メニューだけでなく、名古屋の家庭でも朝食の定番だと聞きます。各家庭には、必ずあんこのストックがあるようです。まさに名古屋のソウル・フードの一つだと言えます。ただ、小倉トーストには大きな謎が存在します。間違いなく美味しいにも関わらず、全国に広まらなかったことです。喫茶店も、何の手間もかからない使い勝手の良いメニューだと思います。朝食にパンを食べる日本人の多さも考えれば、全国的な朝の定番になっていて当然だと思いますが、なぜかそうはなりませんでした。和と洋の違和感とも考えられますが、和洋折衷は日本人の得意とするところです。食事とおやつの境目が判然としないからかも知れませんが、ジャムやペイストリーを考えれば、理由にはなりません。いずれにしても、小倉トーストは、永らく名古屋周辺にしかありませんでした。実に不思議な話であり、答の想像すらつきません。近年は、あんバターとして、あるいはあんこジャムとして広がりも出てきたようです。その展開には、名古屋を代表する喫茶店チェーン・コメダの全国展開が大きく貢献しているようです。(写真出典:recipe.rakuten.co.jp)
【その他】
他にも名古屋めしと呼ばれるものはあります。八丁味噌ベースのどて煮や味噌おでん、天むす、鉄板スパゲティ、あるいは独特なカレーうどんもあります。また、ういろう、鬼まんじゅう、えびせん、コメダのシロノワールまで名古屋めしの範疇に入れる場合もあるようです。名古屋めしの特徴の一つは、明治期以降に誕生したものが多いこと、そしていわゆるB級グルメが多いことだと思います。江戸期までの尾張の特徴的な味と言えば、豆味噌くらいだったのではないかと思います。明治期以降、名古屋は、中京地区の中心として、あるいはものづくりの拠点として栄えます。名古屋めしは、活気あふれる庶民文化が生んだ名物と言えます。