2023年4月13日木曜日

少子化対策

岸田首相
人口の増減は、出産・死亡・移動という3つの要素で決まるわけですが、人口統計学として、その背景・要素を探るとなれば、多くの因子が相互に作用しあう複雑な話になります。しかし、最も根本的には、食料の生産・供給が主たる要素となるのだと思われます。例えば、文明が一定程度進化すれば、人口は停滞・減少期に入るという話をよく聞きます。文明が進化していく背景には食料の増産があり、生産が限界に達すると文明の進化も人口の増加も頭打ちになるということなのでしょう。少なくとも、これまでの人口の増減は、それで説明できたように思います。しかし、ここ数十年、日本を含めた多くの先進国が直面している人口停滞は、理由がまったく異なるように思えます。

日本の人口は横ばいながら、高齢者が増え、14歳以下の年少人口と生産年齢人口は減少を続けています。少子高齢化の主因が、食料生産でないことは明らかです。多くの先進国も同様ですが、日本は、そのスピードが速く、明らかに人口減少期に入っています。医療の進化、栄養の充足等によって高齢者人口が増えるのは当然ですが、最大の問題は少子化ということになります。特殊出生率の低下は、未婚化・晩婚化によるところが大きいわけですが、夫婦が子供を望まない傾向も影響しているようです。未婚化・晩婚化が進んだ理由としてあげられるのは、女性の社会進出、生活レベルの維持指向、経済的不安等です。足元に透けて見える問題は、育児環境の不十分さ、育児コストの高騰、経済格差の拡大等であり、最も気になるのが将来の不透明感です。 

かつて、終身雇用、年功序列という雇用環境を背景に、将来は計画しやすいものでした。さらに言えば、未来というものは、誰にとっても明るいものでした。バブル崩壊後の失われた30年のなかで育った世代が、将来を見通せないのは当然だとも思います。目先の問題や政争に終始し続けてきた政治の責任は重いものがあります。加えて気になることがあります。それは家族という概念の変容です。伝統的に家族の機能は、社会の秩序を守る性的機能、育児などの養育的機能、生産と消費の単位としての経済的機能、介護等の福祉的機能、そして心の安定をもたらす精神的機能などがあると思われます。環境変化とともに、それが大きな曲がり角にさしかかっていると言わざるを得ません。

人間にとって、家族が極めて重要であることに変わりはありませんが、農耕を始めて以降、主な労働力であった家族という枠組みは失われつつあります。あるいは、核家族化の進展によって、親の老後の面倒は子供が見るというシステムも崩壊しつつあります。伝統的な家族の機能が失なわれつつあるなか、結婚し子供を産んで育てるという概念も揺らいでいるのではないでしょうか。気になるデータがあります。日本の婚外子の少なさです。2016年のOECD加盟国における婚外子率の平均は39.7%であり、欧州各国はおおむね50%を超えているのに対して、トルコの2.9%、日本の2.3%、韓国の1.9%が最下位グループとなっています。そして、この3カ国は、最も早いスピードで少子高齢化が進む国としても知られています。

政府は、”異次元の少子化対策”の叩き台なるものを発表しました。地方統一選挙に向けた現金ばらまき策としか思えません。ばらまき政策の効果が極めて限定的であることは衆知の事実です。それを”異次元”などと言うあたりが、失われた30年を生み出し、三流国家への道を進ませる政治センスなのでしょう。ばらまき策は数兆円規模の予算を必要とします。その予算で、育児環境の整備をした方が、よほど効果的だと思われます。さらに言えば、国会でばらまき策を議論する時間があるのであれば、婚外子の法的環境を整えるための議論をした方が生産的です。政治家の皆さんには、表面的な対処療法ではなく、より本質的な議論をしてもらいたいものだと思います。(写真出典:kantei.go.jp)

マクア渓谷