2023年2月13日月曜日

ジビエ

友人の義兄が営むフランス料理店でアナグマのソテーをいただきました。アナグマは、脂身を落として煮込むことが多いようです。ところが、脂身が美味しいらしく、あえて脂身の多いソテーを出してくれました。確かに、脂身は甘く美味しかったのですが、赤身は固く食べにくいものでした。そもそもジビエの類いは、あまり好みません。ジビエは解体処理が命と聞きます。新鮮で、かつ適切に処理されたジビエを食べたことがないだけかも知れませんが、美味しいとまでは思ったことがありません。本当に美味しいのであれば、古くから牛豚鶏のように飼育して、量産できる体制くらいできているものではないでしょうか。なかには飼育に適さない動物もあるでしょうが、美味しければ、なんとかしたはずです。

熊、鹿、鳥類、海獣と様々なジビエを食べましたが、最も多く食べたのは、やはり猪だと思います。両国橋の東詰にある「ももんじや」は、漢方薬を商う店が、1718年に始めたという獣肉料理の老舗です。”ももんじ”は、百獣から転じた言葉だそうで、猪、鹿、熊等が食べられます。猪は”牡丹”、鹿は”紅葉”、馬は”桜”、鶏は”柏”等と呼ぶのは、肉食が忌避されていた江戸期の隠語であり、花札にちなんでいるとされます。また、猪は”山くじら”とも呼ばれ、両国界隈の名物だったようです。ももんじやで何度か牡丹鍋を食べました。柔らかく、クセのない猪肉は、腕のいい猟師がさばいたものなのでしょう。不味いわけではありませんが、美味というほどでもないように思います。

丹波篠山で、名物の猪汁を食べたことがあります。丹波篠山ABCマラソンに参加した際のことです。完走率が8割を超えるという大真面目なレースです。日頃から走ってもいない人間が参加すべきレースではありません。ただ、なんとか6.8kmの第一関門に制限時間内にたどり着き、”収容車”と書かれたバスでスタート地点まで戻してもらいました。その際、篠山の皆さんが猪汁をふるまってくれたわけです。3月、まだ冷えの厳しい山中、温かい猪汁が体にしみました。何杯かおかわりしてしまいましたが、豚汁との大きな違いまでは感じませんでした。猪は、精がつくなどと言われます。肉食が希だった江戸期なら、その通りだったと思います。肉食が一般化してからは、ももんじやも含め、珍しさが先に立っているのではないかと思われます。

ここ数年、ジビエがちょっとしたブームです。ジビエを売りにする店も増えました。ジビエは、フランス語ですが、フランス料理の世界では、野生肉が高級食材とされ、定番料理の一つです。野趣という観点もさることながら、入手困難という点が人気なのかもと思います。近年、日本は過疎化が進み、獣害が増加しています。一方で、日本における狩猟免許交付数は、ピーク時の1/3程度まで落ち込んでいるようです。主な減少要因は高齢化と言われますが、少子高齢化に加え、地方の人口減少も影響しているのでしょう。輸入飼料に頼る日本の畜産ですから、ハンターを増やし、ジビエ肉の安定供給を目指すことは、自給率改善、山林保護、そして温暖化対策にもつながると思います。

フランス料理は、フォンとソースの食文化だと言われます。ソースは、ジビエ肉の臭みを消すために発達したと聞いたことがあります。さすがに、これは言い過ぎだと思います。ただ、比較的寒冷なフランスでは、ジビエも含め、貯蔵された肉類を食材とすることが多く、臭みを消すソースへの関心は高かったのかもしれません。日本のももんじは、味噌を使ったり、鍋物にすることで、臭みを消し、衛生対策を行っていたのでしょう。近年、日本の冷蔵技術の発達には目を見張るものがあります。加えて、伝統の発酵技術の豊富さを考えれば、日本のジビエは、一層美味しく、かつ柔らかくなっていくかもしれません。(写真出典:gibier.or.jp)

マクア渓谷