2023年1月23日月曜日

韓国のお金持ち

かつて「高級と上質の違い」という話が流行ったことがあります。例えば、リッツ・カールトン・ホテルは高級、帝国ホテルは上質、といった具合です。いずれも高価ではありますが、高級は贅をこらした外見の良さ、上質は伝統に根ざした品質の高さといったところになるのでしょう。もちろん、感覚的なものではあります。韓国の映画やTVドラマに登場するお金持ちを見ていると、この言葉を思い出します。超モダンな邸宅、外車、欧州ブランド、お手伝いさん、有力者とのコネ、上に媚び、下には横柄な態度、といった漫画チックにステレオ・タイプ化された姿は、高級どころか成金趣味そのもの。視聴者に反感を持たせるための演出なのでしょうが、それが30年くらい前から一切変わっていないことに興味を覚えます。

かつて、日本の映画やTVドラマでも、固定化されたお金持ちのイメージがありました。例えば、ドレッシング・ガウンを着用して革張りのソファに腰掛け、ブランデー・グラスを片手に葉巻をくゆらす。奥方はつりあがった眼鏡をかけ、「ざま~す」と言うといったものです。1970年代になると、日本は、ある程度の豊かさを獲得し、国際化も進み、”一億総中流”という言葉が話題になります。高度成長に伴う所得増の賜物ですが、敗戦直後、GHQが断行した財閥解体と農地改革の影響も大きいと言えます。ボトムアップによって格差が縮小した一億総中流の時代、ステレオ・タイプ化されたお金持ちのイメージは消えていったように思われます。

韓国の場合は、多少、事情が異なります。朝鮮戦争の傷跡が残る1960年代初頭、韓国は最貧国の一つでした。しかし、1965年の日韓基本協定に基づいて得た3億ドルをもとに、重工業化を進めた韓国は、1970年前後から「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異的な経済成長を見せます。90年代中期の金融危機の時期を除き、一人当たりGDPは右肩上がりに伸び、日本と大差ないところまで来ています。経済格差を、ジニ係数や貧困率から見ても、高齢化、核家族化、非正規雇用化など同じ問題を抱える日本と韓国に大きな違いはありません。ただ、韓国の高齢者貧困率、若者の失業率は深刻なレベルにあります。そして、日韓の大きな違いの一つは、韓国経済を牽引してきた財閥の存在だと思います。単なる企業グループではなく、家族が支配する財閥です。

財閥に対する”恨”、つまり憧れと妬み、あるいは自責の念が、ステレオ・タイプ化されたお金持ち像を生んでいるのかもしれません。加えて、異様なまでに上下関係の明確化にこだわる韓国の人々の特性が反映されているようにも思えます。韓国人の派手好きや見た目へのこだわりも、あるいはニュース等で「日本に勝った」というネタが好きなこと、あるいは男女差別等も、すべて上下関係へのこだわりの現われです。背景には儒教の影響があると思われます。李氏朝鮮は、儒教を社会統治の根幹に置きました。日本の仏教と好対照だと思います。儒教は上下関係を重んじます。それが行き過ぎると、常に上下関係を明確化することに取り憑かれ、上位に立つ者は下位の者に対し、横柄な態度を取る一方でおごる等の施しを行います。また、親分的に様々な便宜を図ってあげる必要も生じ、ネポティズムが生まれます。

つまり、韓国のお金持ちは、お金持ちであることを、常に見せつける必要があるのではないかと思われます。だとすれば、映像の中のステレオ・タイプ化されたお金持ち像は、結構、リアルな姿であり、経済成長とともに消えることもないと言えそうです。日本では、成金趣味を蔑む傾向があります。それは、趣味の良し悪しに関わる問題ではなく、突出することを嫌う日本人の集団主義ゆえと考えられます。中庸を以て善しとする日本人から見れば、韓国の金持ち像は、異様に映るわけです。ちなみに、中庸は儒教由来の言葉です。本来的には、何事にも偏ることなく判断するといった意味なのでしょうが、日本の場合には、皆と同じ、という意味合いで浸透しているように思われます。(写真出典:yahoo.co.jp)

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