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ライヒス・ビュルガー |
それから200年が経ち、ワクチン接種が一般化した現代にあっても、19世紀初頭と同じ反応が発生したのは、間違いなくSNSの悪影響だと言えます。信用できる友人の書き込みは、事実確認することなく拡散されていきます。聞いた話よりも書かれた情報の方が、信憑性が高まるという効果もあるのでしょう。また、国やマスコミが決して語らぬ裏情報という話は、妙に信憑性を高める効果もあります。当然のごとく、そこには意味不明な国家陰謀論も登場することになります。噂話として拡散したデマが、大衆を右へ左へと動かす構図は、大昔から何一つ変わりません。社会に不安が広がる時には、必ず陰謀論が生まれるものです。そして、SNSは、飛躍的に、その拡散スピードを早め、拡散範囲を広げるわけです。
今月初め、ドイツ政府は、ライヒス・ビュルガーの幹部たちを一斉検挙しました。ライヒス・ビュルガー、”帝国の住民”は、現ドイツ政府を認めず、ドイツ帝国が存続していると主張する人々です。その根拠は、ワイマール憲法が、法的に停止されていないことだと言われます。現政府を否定しているので、独自の政府、通貨、パスポート等も持っているようです。実態的には、複数のグループがそれぞれ独立的に存在し、総数は2万人程度と言われます。戦後ほどなくして登場したようですが、単なる変人として問題にされることもなかったようです。ところが、ドイツで、移民、難民問題が社会を揺るがし始めるとともに、ライヒス・ビュルガーも存在感を高めていきます。
ちょうどアメリカでは、トランプ旋風が起こり、Qアノンが台頭してきます。これがライヒス・ビュルガーにとって追い風になったことは間違いないと思われます。いずれも社会不安を背景に、SNSで拡大した運動ですが、SNSが可能にした断定的な強い表現が、運動の性格にマッチしていたと思います。思えば、ヒトラーもトランプも、断定的なものの言い方が特徴でした。事実確認を拒否したSNSの断定的発言の背景にあるのは、その匿名性だと思われます。匿名性ゆえに、自由で開かれたネット空間が生まれているとも言えますが、一方では、デマの拡散、誹謗中傷といった卑劣な犯罪的行為も起こります。そろそろ、なんらかの法的な事前規制が検討されてもいいところまで来ているように思います。
災害時のデマなどは、甚大な人的被害を生じさせる可能性すらあります。例えば、災害といった特定の状況、犯罪に関わる事象、あるいは公人といった立場によっては、匿名による発信を認めない等の対策も考えられます。また、限定列挙された事象に関わる発信については、実名が公表される場合があることを、事前に承諾させる方法も考えられます。実際の規制に際しては、なかなか判断が難しくなると思われます。ただ、人類が経験したことのない世界ゆえ、トライアル&エラーを重ねることでブラッシュ・アップしてゆくしかないように思います。いずれにしても、農耕以前の法も道徳もない世界に逆戻りしたような状況は放置すべきではないと思います。(写真出典:insurgente.org)