2022年11月4日金曜日

ビールの味

飲み屋で、日本の4大ビール・メーカーの利き酒会をやったことがあります。私は、 ビール党ではありませんが、4社の味の区別くらいつきます。簡単だとおもったのですが、1社しか当たりませんでした。ビール党を自負する人でも、すべて正解した人はいませんでした。ビール会社の人に聞くと、日本のビールの利き酒は、意外と難しいとのこと。日本のビールの味は、すべて苦味中心となっており、似ているからだと思います。その苦味こそ、私がビール党ではない理由でもあります。ビンのビールならグラス一杯、生ビールなら小ジョッキ一杯、それ以上は欲しくありません。苦味が生む清涼感は、そこまでだと思います。

さらにビールを飲み続ける必要があれば、私は、他のアルコール飲料を加えて飲みます。いわゆるビア・カクテルということになります。例えば、ウィスキーを、少し加えるだけで、ビールの苦味が消えておいしく飲めます。いわゆる”ボイラー・メーカー”ですが、正しいボイラー・メーカーは、ウィスキーと言ってもバーボンを入れます。テキーラを加えれば”サブマリノ”になります。韓国の”爆弾”は、ビールにソジュに加えます。いずれもビア・ジョッキに、他のアルコールが入ったオンス・グラスを沈めて飲むことも多く、随分と豪快な、あるいは乱暴な飲み物と思われています。ただ、味はまろやかになって、美味しく飲めます。

他にも白ワインを入れた”ビア・スプリッツアー”、カンパリを入れた”カンパリ・ビア”なども美味しく飲めます。この系統は、スパークリング・ワインの代わりにビールを使っているわけです。加える飲料は、アルコール類とは限りません。レモン系炭酸を加えれば“パナシェ”、ジンジャー・エールなら”シャンディ・ガフ”、トマト・ジュースなら”レッド・アイ”になります。爽やかなパナシェは、私のお気に入りです。また、真夏のゴルフ場のレッド・アイなど、格別なうまさがあります。ビア・カクテルは、ビールのうまさの決め手である苦味をわざわざ消すわけですから、ビール党からすれば、言語道断、もってのほか、ということになるのでしょう。

しかし、世界的に見れば、苦味がビールの全てというわけでもありません、世界には100種類を超すビールが存在するようです。ビールは、酵母が麦汁表面で発酵する上面発酵のエール、逆に下部で発酵する下面発酵のラガーに大別されます。英国のエールは芳醇で濃厚、ドイツ系のラガーはのどごし良く爽快とされます。日本のビールの主流は、ラガーのなかでも、チェコ発祥のピルスナーのドイツ版であるジャーマン・ピルスナーとされます。日本では、江戸末期から明治初期にかけて、英国のエールが主流でした。それが、明治中期には、すっかりドイツ系のラガーに置き換わります。高温多湿な日本の風土には、エールよりもラガーが適していたのかも知れません。

それ以上にラガー隆盛の背景となったのが、明治政府の方針転換でした。明治初期には、英国を手本とした薩長政府ですが、岩倉使節団以降、新興国ドイツをロール・モデルと定めます。以降、法制、軍制、官制、あらゆるものがドイツ一辺倒になっていきます。ドイツ人が増え、ドイツ人との交流も増え、ドイツへの留学生も増えます。ビールも、ジャーマン・ピルスナーが主役に躍り出て、折しもビールの普及期と重なったことから、これがビールの味だとされ、定着していったわけです。政府の方針が、ビールの味にまで影響し、それが、いまだに続いているというのも驚きです。近年、日本もドラフト・ビールのブームが起こり、様々な味が楽しめるようになりました。150年を経て、日本におけるビールの国際化、多様化が、ようやく実現したとも言えそうです。(写真出典:kakakumag.com)

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