2022年10月22日土曜日

魅力度ランキング

抗議する群馬県知事
かつて会社に入ると、自分の印鑑が必要になり、私は、一番安い竹製のものを持っていました。立派な印鑑である必要を感じなかったので、それで十分でした。30歳前後、営業現場でセールス・マネジャーになると、近所の銀行の支店長から、マネジャーになったら、そんな印鑑じゃダメだと言われました。それもそうだと思い、出入りの印鑑屋3軒に声を掛けました。当時の印鑑屋の商売は、無料で姓名判断を行い、そこから販売につなげるというものでした。姓名判断は、どこも同じような結果でした。いい名前だ、出世する、ただ、一カ所、家族を失う相がある。それを回避できる印鑑の作り方がある、というわけです。

会社の後輩に、学生時代、占術同好会に所属し、手相見もやっていたという奴がいました。何度か、手相を見てもらううちに、彼らの手法が分かってきました。手を持つと、しばらくは何も言わずに、広げたり、すぼめたりしています。すると、「う~む」と一回だけうなります。こっちは、何か悪い相でも出ているのか、と心配が募り、早く結果を聞きたくなります。この時点で、何を言われても信じる態勢が出来上がっているというわけです。不安を煽り、依存を高めていくという、初歩的なマインド・コントロールの手法だと思います。同じような匂いを感じさせるのがブランド総合研究所の「都道府県魅力度ランキング」だと思います。 

都道府県魅力度ランキングは、同社が、毎年行っている「地域ブランド調査」のなかの一項目だそうです。調査の目的は、各県・各市のブランド力を総合的に調査し、そのデータを販売するとともに、ブランド力醸成のコンサルティング契約を獲得するということのようです。データ販売に関しては。400を超す自治体が購入しているようです。マスコミに公表されるのは都道府県魅力度ランキングだけであり、いわば広告塔の役割を担っています。マスコミも、面白おかしく報道し、最下位グループの県は、一喜一憂します。まさにブランド総合研究所の思うつぼです。ただ、県民は冷静だと思います。大騒ぎするのは、県庁の役人、それも観光課などに所属する人たちだけだと思います。

栃木県や群馬県の知事は、調査が信頼性や妥当性に欠けるとして、研究所に抗議しています。しかし、印鑑屋や手相見の手法に抗議するようなもので、意味がないと思います。魅力度ランキング自体は、統計としての要件を満たしています。ただ、順位付けに意味があるとは思えませんし、根本的には「魅力度」なるものの定義が判然としません。旅先としての訪問意向、好きか嫌いかといった好感度の調査なら、定義は明確です。魅力度では、回答者によって定義がブレすぎるので、統計手法上は成立しても、データとしては無意味だと思われます。ましてや、順位付けなどあり得ません。魅力度ランキングの公表は、マスコミの特性、統計のマジック等を、よく心得た巧妙な手法だと思います。

青森県庁の人から依頼を受け、会社で青森フェアを開催したことがあります。物販コーナーを設け、社員食堂では、名物料理や青森の食材を使ったメニューを出し、夕刻は食堂のバー・コーナーで地酒の利き酒会を開きました。大成功でした。それを聞きつけた茨城県関係者から、同様のフェア開催の依頼がありました。当時、茨城県は、魅力度ランキングで不動の最下位を続け、マスコミでいじられていました。最下位脱出のために協力してくれ、というわけです。ただ、最下位を脱して、ワースト2位か3位になれば、話題性を失うのではないですか、と申しあげたところ、当然ですが、嫌な顔をされました。(写真出典:tokyo-np.co.jp)

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