2022年10月21日金曜日

米粉

日本では、麺と言えば、おおむね小麦粉かそば粉から作られます。中国南部や台湾、そして東南アジア一帯では、麺と言えば、多くは米粉から作られます。日本も稲作の国です。なぜ米粉の麺がないのか不思議でした。どうやら、それは米の品種の違いによるところが大きいようです。粘着性が高く短い粒のジャポニカ米とパサパサとした細長い粒のインディカ米の違いです。インディカ米は、脱穀の段階で、割れる粒が多く、それを無駄にしないという発想から米粉の文化が生まれたと言われます。一方のジャポニカ米は、米粉に加工することが難しいため、米粉麺は日本に根付かなかったようです。

麺の発祥については、諸説あるようです。アラビア説、イタリア説もあるようですが、中国では、4,000年前に雑穀から作られた麺の痕跡が見つかっています。中国に小麦と製粉技術が伝わったのは、3世紀の漢代でした。種々の麺料理も生まれ、上流階級では、主食にまでなります。ただ、麺が一般化するのは、12世紀の宋代になってからです。宋では、夜、庶民が外出することが認められ、屋台での食事が流行します。その中心となったのが、麺、饅頭、餃子といった麺料理だったとされます。北方の金王朝の圧迫を受けた宋は、中国南部へと展開し、南宋の時代を迎えます。麺の文化は、中国南部にも伝播し、南方の主食だった米を使った麺づくりが始まります。

中国には、多様な麺文化があります。製麺方法、麺の形、スープの味、トッピングなどによって、多種多様です。米粉麺も同様ですが、代表的なものとしては、福建省発祥で台湾の新竹などが有名なビーフン(米粉)、雲南省発祥で過橋米線に使われるミーシェン(米線)、あるいは広東省発祥のホーフェン等々があります。ホーフェン(河粉)は、ヴェトナムのフォー、タイのクイティアオ、カンボジアのクイティウ等に展開しました。ヴェトナムのフォーは平麺ですが、丸麺はブンと呼ばれます。タイのクイティアオは、麺の太さに応じて、おなじみのセンヤイ・センレッ・センミーに分かれます。米粉麺は、通常、塩を加えず、粉と水だけで作られるので、やさしい味になります。

日本でも、米粉は古くから存在はしていました。ただ、外皮が硬く、粉にして食べるしかなかった小麦と異なり、米は粒食が基本です。奈良時代には、米粉を使ったせんべい等が渡来します。以来、日本の米粉は、菓子類の材料として使われることになります。うるち米から作る上新粉は団子になります。もち米から作る白玉粉は白玉団子になります。他にも、おはぎや桜餅になる道明寺粉、大福などになる餅粉等々があります。近年、米の消費量が減少し、一方で技術が発展したことから、米粉が見直されています。特に微細粉米粉は、小麦粉の代用として、麺類はもとより、パン、ケーキ等々、かなり幅広く使われるようになりました。また、油の吸収率が小麦粉よりも低いことなどから、料理でも使われるようです。

米粉は、小麦粉に比べ、アミノ酸を多く含み栄養価が高いことに加え、グルテン・フリーであることから、依存性や血糖値の急上昇も抑え、ダイエット効果が認められるそうです。健康面に加え、食料自給率を上げる効果も期待されています。大いに結構なことではあります。ただ、麺に関して言えば、ふくよかな味わいの小麦粉麺、やさしい味わいの米粉麺と異なる味わいがあり、料理としては、それぞれ独立した存在となっています。例えば、米粉パンも小麦粉パンも、同じパンとして売られていますが、米粉パンは、しっとりして、もちもち感が強く、香ばしさやふくよかさには欠ける傾向があります。米粉を、いつまでも小麦粉の代用品と位置づけていたのでは、米粉の特性を活かすことにも、消費の拡大にも限界があるように思えます。米粉の特性を活かした新たな食品ジャンルとしての開発や販売がなされるべきかと思います。(写真出典:owned.kanazaki-okome.jp)

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