展望台から北側を見れば、セントラル・パークとミッド・タウンのビル群、南を見れば、ロウワー・マンハッタンのビル群と自由の女神が一望でき、かつてはそこにはワールド・トレード・センターも建っていました。東は、イースト・リヴァー越しに、JFK空港を離着陸する飛行機、西は、ハドソン川の向こうにニュー・ジャージーの工場地帯が見えます。特に素晴らしいと思うのは、ビルの谷間を埋める車のヘッド・ライトとテール・ランプです。NYは一方通行の道がほとんどなので、白い光の川、赤い光の川が、交互に流れています。何度見ても、見飽きることのない景色です。その光の川を見ると、NYだな、としみじみ思うわけです。
エンパイヤ・ステート・ビルディングは、1929年に着工、1931年には竣工しています。驚異的な早さです。建設を急いだ理由は、前年、同じマンハッタンに竣工したクライスラー・ビルディングが獲得した「世界一高いビル」の称号を、一日でも早く奪うためだったとされます。ちなみに、エンパイヤ・ステート(帝国の州)とはNY州のニックネームです。米国最大の都市であり、経済・文化の中心であるNY市があることから、ジョージ・ワシントンが名付けたとされます。エンパイヤ・ステート・ビルディングが建設されたのは、世界恐慌の最中であり、多くの雇用を生み出す一方で、竣工後、しばらくは空室だらけのビルでもあったようです。
エンパイヤ・ステート・ビルディングへの来訪者のなかで、最も有名なのはキング・コングということになります。映画「キング・コング」は、1933年に公開されました。AFIの歴代アメリカ映画ベスト100の43位にランクされる歴史的名作です。ことにコングが、故郷の島の高い山を思い出して、エンパイヤ・ステート・ビルディングに登るシーンは印象的でした。一方、歓迎されざる来訪者もありました。1945年のB-25ミッチェル爆撃機突入事故です。79階と80階が燃え、14人の死者を出しています。とは言え、40分で鎮火され、2日後には営業再開されています。B-25が中型機であり、かつ着陸直前で燃料が少なかったことも幸いしましたが、なにせビルの頑丈さを物語る事故でした。
エンパイヤ・ステート・ビルディングは、クライスラー・ビルディングとともに、アール・デコを代表する建築です。アール・デコは、世紀末のアール・ヌーヴォーの曲線に対して、直線や幾何学的模様が特徴です。ある意味、機械的でもあり、工業の発展を取り込んだ様式とも言えます。当時としては、近未来的でモダンなスタイルだったのでしょう。エンパイヤ・ステート・ビルディングは、外見に留まらず、内装も徹底的にアール・デコ様式が施されています。恐らく、それが建物としての頑丈さにもつながっているのでしょう。(写真出典:de.wikipedia.org)