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庄川の鮎 |
対して大ぶりでプリプリした鮎の代表は、魚野川の鮎ではないかと思います。清流として知られる魚野川は、谷川岳を水源に、新潟県魚沼を流れ、長岡で信濃川に合流します。上質で豊富な水が、魚沼産コシヒカリ、あるいは八海山はじめ名酒を生んでいます。当然、鮎も有名で、魚野川にはいくつかの”やな場”があります。梁(やな)漁は、川の中に、竹や木材で作ったすのこ状の台を設置し、上流から泳いできた魚を捕獲する漁法です。傾きを持たせたすのこの上流側は水中にあり、下流側は水面の上にあります。つまり、上流から泳いできた鮎は、気が付くとすのこの上に打ち上げられているわけです。その鮎を、その場で食べさせてくれるのが、やな場です。
最も一般的な鮎の塩焼きは、鮎が波打つように串を打ちます。鮎が体をくねらせ、泳いでいるような風情を出すためなのでしょう。魚野川の鮎は、大きくプリプリしているので、口からまっすぐ串を通すしかありません。鮎の塩焼きの上品な食べ方といえば、背中や側面を箸でまんべんなく押し、尾びれを取り、頭の周りに切れ込みを入れ、頭ごと骨を抜き取ります。魚野川の鮎は、そんな上品なことをせず、側面からかぶりつくのがお薦めです。京都愛宕山の平野屋の鮎は天下一品です。さすがに、平野屋では、骨を抜き取る上品な食べ方をします。ただ、庄川や魚野川の鮎のようにかぶりつくスタイルの方が、野趣にあふれ、美味しいように思えます。
鮎の塩焼きには蓼酢が添えられます。味としては、塩だけで十分だとも思いますが、濃い緑色と香り、若干の辛味が初夏を感じさせ、なかなか良いものです。いつも不思議に思うのですが、蓼酢は、ほぼ鮎の塩焼き専用のようであり、他の料理に添えられているのを見たことがありません。紅蓼は、上品な料理屋で、刺身のツマとして出てきます。辛味がありますが、刺身の薬味としては、やはりワサビがメインであり、紅蓼は彩りを添えている程度のように思えます。薬味としては、穂しその方が使い出があります。蓼食う虫も好き好き、という言葉がありますが、これは苦い蓼を好む蓼虫のことであり、好みはそれぞれ違うという意味です。蓼は、なかなか不思議な食材だと思います。
鮎という漢字も、実に不思議です。よく聞くのは、神功皇后が鮎を釣って戦いの勝敗を占ったことから、魚偏に占うと書くようになったという話です。鮎で、どう占ったのか、その方法がよく分かりません。更に言えば、鮎という漢字は、中国でナマズを指し、古代日本も同じくナマズのことだったと聞きます。アユという呼称は、産卵期に川を下ることからアユル(落ちる)、あるいは神に捧げるアエ(饗)からきていると言われます。問題は、アユという呼称と、ナマズを意味する鮎という漢字の結びつきです。これが、どうにもよく分かりません。(写真出典:city.tonami.lg.jp)