アルバム名:Shaft(1971) アーティスト:Isaac Hayes
1971年に公開れたゴードン・パークス監督の「黒いジャガー(Shaft)」は、黒人のスタイリッシュな私立探偵ジョン・シャフトが活躍するアクション映画でした。シャフトは、単なる大ヒット・アクション映画というに留まらず、ブラック・パワーの時代を象徴する映画でもありました。監督はじめ、スタッフの全てが黒人という映画の代表作でもあります。音楽を担当したのは、スタックス・レーベルの大物アイザック・ヘイズであり、このアルバムは、そのサウンド・トラックです。主題歌の「Theme from Shaft」は、世界的にヒットし、アカデミー歌曲賞を獲得しています。アイザック・ヘイズは、1942年、テネシー州コンヴィトンに生まれています。幼少期から、自己流で各種楽器をこなしていたようです。1960年代中頃から、ナッシュヴィルのスタックス・レコードのスタジオ・ミュージシャンになります。スティーブ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンなどと共に、オーティス・レディング等のレコーディングに参加するとともに、作曲も行っています。この頃、サム&デイブに提供した「Soul Man」や「Hold on I'm Comin」は、R&Bを代表する大ヒット曲となりました。また、ブッカー・T&ザ・MG'sやカーラ・トーマスをプロデュースしたことでも知られます。
1969年には、自身の名義で「Hot Buttered Soul」を発表します。バーケイズとオーケストラをバックに長尺の曲を並べています。当時としては、かなり画期的なアルバムであり、後のネオ・ソウルへの道を開いたとも言えます。このアルバムがなければ、マーヴィン・ゲイの「What's Going On」は生まれていなかったかも知れません。Hot Buttered Soulで示した世界を、さらにポップに展開してみせたのがシャフトだったと思います。映画「シャフト」が、映画のなかの黒人の立ち位置を変えたのと同様、アイザック・ヘイズの「シャフトのテーマ」は、R&Bをネオ・ソウルへと解放したとも言えるのではないでしょうか。
アルバムからは、「Theme from Shaft」と「Do Your Thing」がシングル・カットされています。ただ、忘れてはいけない名曲が「Cafe Regio's」です。アイザック・ヘイズのジャンルを超えた才能があふれた名曲です。オクターブ奏法で弾くギターをメインとするインストゥルメンタル曲です。ピアノとブラスが、良い感じでからみます。NYのグリニッチ・ヴィレッジには、1927年、NY初めてのコーヒーショップとして開店した”Caffe Reggio”があります。初めてアメリカにカプチーノを紹介した店としても知られます。とにかく大好きな店でした。10年ほど前にも行きましたが、何一つ変わっていませんでした。映画シャフトにも登場していますが、スペルは若干変えられています。
サザン・ソウルを牽引したスタックス・レコードは、1975年、残念ながら倒産しています。その後、アイザック・ヘイズは、音楽分野だけでなく、俳優としても活躍しました。ジョン・カーペンター監督の傑作「ニューヨーク1997」(1981)での演技が印象に残ります。ソウル界の大物として存在感を示し続けたアイザック・ヘイズでしたが、2008年、メンフィスの自宅で、エクササイズ中に脳梗塞を発症し、亡くなりました。享年65歳。やや早すぎる死だったように思います。ネオ・ソウルは、マーヴィン・ゲイはじめビッグネームが登場したものの、しばらくマイナーな存在であり続けました。ただ、ここのところ、結構な盛り上りを見せています。最近のネオ・ソウルを、アイザック・ヘイズにも聞かせたかったな、と思っています。(写真出典:amazon.co.jp)