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渋野日向子 |
一方、野球帽ですが、これはさすがに野球が起源ということになります。ただ、これも日よけと安全性以外、とりわけ野球というスポーツに特化した機能を持っているわけではありません。つまり、帽子なら何でもよかったわけです。現に、アメリカで野球の原型が誕生した頃、被っていた帽子は、麦わらのカンカン帽や、ハンチングの一種であるキャスケット帽、あるいは安全性を考慮したのか競馬のジョッキー用の帽子等だったようです。1860年頃、ブルックリン・エクセルシオールというチームが採用した帽子が、野球帽の原型だとされます。南北戦争時の軍帽とジョッキーの帽子を組み合わせたものだったようです。また、より軍帽に近いピルボックス型、今のワークキャップに近いものもあったようです。
野球は、南北戦争時の兵士のリクレーションとして全米に広まっていきました。軍帽と野球との関連は、ここにあったわけです。そして、ルールが統一される際、チームは同一の服装を着用することが定められ、野球帽が定着しました。1940年頃には、現在の野球帽の形ができあがったようです。そして、アメリカにおいて、野球帽は、野球以外の場面においても着用されるようになり、ハンチングを押しのけていくわけです。その転換が進んだ最大の理由は、価格だと思われます。野球帽は、ハンチングに比べて、製造工程が簡単で安価だったわけです。1970年代になるとトラッカー・キャップが普及します。野球帽の前面をフォーム製にして、トラックや農機具メーカーのロゴを入れたキャップが、ノベルティとして配られ、一気に普及します。
ゴルフの話に戻ると、一体、いつ頃から、野球帽が主流になったのか、どうもはっきりしません。ちなみに、マスターズの古い写真などを見てみますと、1950年代は、まだハンチングの時代だったようです。ベン・ホーガンなどは典型なのでしょう。またサム・スニードは、パナマ帽がトレードマークでした。60年前後になると無帽のプレイヤーも多いように思えますが、帽子としては、ハンチングよりも野球帽が多くなっています。ただ、あくまでもアメリカでの話であり、イギリスでは、まだハンチングが主流だったのでしょう。もちろん、一流ゴルフ・プレイヤーが、安価ゆえに野球帽を選択したとは思いません。フィット感の良さに加えて、社会的に、あるいはスポーツ界において、野球帽が市民権を得たからなのでしょう。
NYの人たちは、農民を”Baseball Caps”と呼んでいました。小馬鹿にした言い方ですが、確かに、アメリカの田舎では、農民に限らず、皆、野球帽、正確に言うとノベルティのトラッカー・キャップを被っています。日本でも、70年代以降、同じ現象が起き、農民は、クボタかイセキの野球帽を被るようになりました。それ以前は、菅笠、あるいは手ぬぐいでほおかむりというイメージでした。農業の機械化が進んでいないヴェトナムの農民は、今も菅笠を被っています。ちなみに、”Baseball Caps”と似た言葉に”Red Necks”という言い方もありました。こちらは、アメリカ北部の人たちが、南部の農民や肉体労働者を蔑む言葉です。南部の強い日差しのなかで労働しているので、首が赤く焼けているというわけです。(写真出典:news.yahoo.co.jp)