2022年8月19日金曜日

北極で氷を売る

20年前、「エスキモーに氷を売る」というビジネス書がヒットしたことがありました。観客動員数が全米最下位だったバスケット・ボール・チームを、高収益チームに変えたジョン・スポールストラの経験談でした。スポールストラが行ったのは、数少ない熱心なファンに、もう1回だけ多くゲームを見に来てもらう、もう1枚だけ多くチケットを買ってもらうことでした。CRM、リピーター戦略のとても良い実例でした。ネットで「北極で氷を売る」という言葉を見つけ、おや、と思い、開いてみると、スポールストラの話ではなく、ドミノ・ピザに関する記事でした。イタリアに進出していたアメリカのドミノ・ピザが、全面撤退するという話でした。

ドミノがイタリアに進出していることなど、全く知りませんでした。確かに、北極で氷を売るようなものです。進出時の目標は、イタリア全土で900店舗展開だったそうですが、現在は33店舗とのこと。なんとも無謀な挑戦だったように思えます。丸亀製麺が、香川県に店を出す時も、随分話題になりました。香川県の地名である丸亀を名乗るものの、丸亀製麺は兵庫県加古川発祥の焼き鳥チェーン”トリドール”の経営です。香川には、何軒か出店したようですが、現在は、ただ1店を残すのみと聞きます。丸亀製麺は、安くて美味しいので人気ですが、うどん県香川では、もっと安くて、もっと美味し店がザラにあります。

アメリカとイタリアでは、同じピザでも、その文化は大きく異なります。たっぷりのチーズとトッピングを楽しむのがアメリカで、イタリアではクラストを楽しむのがピザです。深皿のようなクラストに大量のチーズを入れたシカゴ・スタイルのピザなど、もはやピザとは呼べないようにも思います。ドミノは、アメリカ式ピザという特色に加えて、宅配というお家芸も売りに、本場イタリア市場に参入します。ただ、宅配については、地元のピザ屋も始めます。かつ、ドミノは、価格的にも優位性はなかったようです。そして、なによりも、パイナップルが乗っているピザなど、イタリア人の理解を超えていたということなのでしょう。

シアトルのスターバックス・コーヒーが、イタリア進出を表明した時にも驚きました。イタリアン・ローストで世界を制覇したスターバックスとは言え、やはり北極で氷を売るに等しい話でした。巨大なカップで薄いコーヒーをチビチビ飲むアメリカと、デミタス・カップでエスプレッソを立って飲むイタリアでは、文化が違いすぎます。イタリア人にとって、スタバは信じがたい文化と言えます。そこで、スタバは、街のカフェとの直接的な戦いを避け、プレミアム・スターバックスという超高級店をミラノに出し、味の勝負に出ました。この作戦は成功したようで、少しづつ店舗数を増やしているようです。それは結構な話だと思いますが、店舗数で稼ぐチェーン店が、そこまでしてイタリアに進出する意味があるのかどうかは、多少疑問です。

ドミノは、1960年、デトロイトの西にあるイプシランティで創業されました。学生街のピザ屋を購入したモナハン兄弟は、車を持っていない学生にピザを届けるサービスを思いつきます。宅配ピザ誕生の瞬間です。現在、ドミノは、世界83カ国に、15,000店舗を展開する世界最大のピザ・チェーン店です。ドミノが急成長した要因は、TVCMと30分保証だったのだろうと思います。注文してから、30分以内に配達できなければお代は無料というサービスです。一度、無料にしてもらったことがあります。本当にやるんだと驚きました。1990年代、アメリカで配達員が起こした交通事故で被害者が亡くなり、企業責任を問われたドミノは敗訴します。以降、30分保証は無くなりました。ただ、いまだ継続している国もあるようです。(写真出典:ja.m.wikipedia.org)

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