2022年7月29日金曜日

アペリティーヴォ

中世の佇まいを残すフィレンツェは、本当にいい街だと思います。ローマへ家族で旅行した際、ローマ・テルミニ駅近くにアパートを借りたので、朝早くの電車でフィレンツェへ出かけ、まる一日、ウフィツイやドゥオモ観光をし、夜の電車で戻りました。前身がイタリア国鉄というトレニタリアの高速鉄道フレッチャロッサを使えば、ローマ・フィレンツェ間は90分弱。チケットは、ネットで日本からも買うことができ、席も予約できます。やはり事前にチケットを購入しておいたウフィツイ美術館もピッティ宮殿も、すんなり入れて、たっぷり楽しむことができました。

昼食には、ビスティッカ・アラ・フィオレンティーナを堪能しましたが、夕食は、初めて、イタリア名物アペリティーヴォを楽しみ、夕食代わりとしました。アペリティーヴォは、食前酒という意味ですが、プラス料金を払うと、つまみ食べ放題になります。飲み物代だけで、つまみは無料という地域もあるようです。つまみの種類は、街や店によって異なるようですが、ピンチョス・スタイルが多いように思います。プラス料金も店によって区々ですが、おおむね数ユーロといったところです。イタリア人は、夕方にアペリティーヴォを楽しみ、夜9~10時頃から、夕食を食べるわけです。種類豊富なつまみのなかにはパスタ等もあり、日本人にとって、アペリティーヴォは夕食として十分以上だと思います。

アメリカ由来のハッピー・アワーのイタリア版といったところです。酒を割引く代わりに、つまみを無料で、あるいは安く提供するわけです。ハッピー・アワーの語源は、アメリカ海軍にあり、街で広がりを見せたのは1960年代以降と言われます。アペリティーヴォは、ミラノ発祥とも言われますが、時期も含めて、どうもはっきりしません。もともと、世界中の都市部には、仕事終わりに、軽く1~2杯の酒を楽しみ、その後、帰宅するという文化があります。NYでも同じであり、職場の近くの店で、皆、飲んでいます。腰を据えて飲むというよりは、カウンターのあたりで立ち飲みが一般的です。同僚はもとより、近所の会社で働く人たちとも、気軽に交流できます。いい文化だと思いますが、当時の日本人駐在員は、残業が多く、あまり参加していませんでした。

仕事終わりの一杯という文化は、イタリアでも同じです。夕暮れ時のバーは、外にまであふれた客で混み合っています。実にイタリア的な光景です。アメリカのハッピー・アワーで定番の飲み物と言えばビールかウィスキーですが、イタリアでは、ワインが多いように思います。北イタリアに行くと、プロセッコと呼ばれるヴィネト州のスパークリング・ワイン、カンパリ、そしてスプリッツが主流です。スプリッツは、北イタリアを代表するカクテルです。プロセッコに、氷、炭酸水、カンパリかアペロールを加え、オレンジかレモンのスライスを入れます。カンパリを使えば苦味がきいたスプリッツ、アペロールなら色も味もソフトになります。プロセッコの代わりに白ワインを使う場合もありますが、お薦めできません。

いずれにしても、スプリッツは、イタリアの夕暮れ時に、実によくあうカクテルだと思います。それが、イタリア料理好きの日本で、なぜ一般化していないのか不思議です。さるイタリア料理店で聞くと、そもそもプロセッコの生産量が限られ、日本にはあまり入ってこないからだと言っていました。それもそうなのでしょうが、プロセッコは、決して高価なものではありません。日本では、スパーリング・ワインと言えば高価なものなので、高く売れないプロセッコは、輸入業者にとっても、店にとっても好ましい酒ではないのではないでしょうか。いずれにしても、夏場になると、余計にスプリッツが恋しくなります。(写真出典:iiyanitalia.com)

マクア渓谷